書評 Angels & Demons
3年ほど前から英語の小説を読み始めました。
きっかけは、平成15年12月にオレゴン健康科学大学を訪問した際に、もっと英語に親しもうと思った事でした。同じ12月の末、アフリカのマラウイ共和国への旅の途中、南アフリカのヨハネスブルグ空港の売店でハリーポッターの第3巻を買い、移動の合間の暇つぶしに読み始めました。なんで3巻からかというと、1と2は既に映画を見ていたからでした。その後ハリーポッターシリーズは、1巻から6巻まで全て読破しました。今は最終7巻の発売を心待ちにしている所です。
数百ページもある英文小説を楽しんで読むために、私は極力辞書をひきません。多少わからない単語があっても、流れの中で意味がつかめればいちいち調べずに済ませて、文章の流れを楽しむようにしています。少し読み進んだ後で、重要と思われる単語だけ調べる事はあります。現在書籍の辞書は持っていませんが、手持ちのパソコンに研究社英和・和英中辞典、Pocket PCにジーニアス英和・和英とアメリカンヘリテージ英英、携帯電話にスーパーアンカー英和・和英をインストールしてあり、その時手近にある物を利用しています。
ハリーポッターの原作を読んでから映画を見ると、あれれと思う事がたくさん出てきます。小説では張りめぐらされていた複雑な伏線も、殆ど省略されていたりします。ストーリーそのものもかなりいじられているのがわかります。例えば4巻「炎のゴブレット」では、原作では屋敷僕のドビーが活躍しますが、映画では全く登場しませんでした。
湖底に捕らわれた人質を救出する試験の場面で、映画では単純にネビルがハリーにエラコンブを使えばいいと教えてそれで終わりです。しかし原作はもっと複雑です。ハリーを故意に勝たせようとしているマッドアイ・ムーディー教授(に化けている別人)が、薬草学が得意なネビルにエラコンブの事を教えて、ハリーに情報が流れる様に細工をします。しかしハリーは全くそのヒントに気付きません。業を煮やした教授はドビーにエラコンブの事を故意に盗み聞きさせ、それを聞いたドビーがスネイプ教授の部屋に忍び込んでエラコンブを盗み出し、ハリーに手渡します。ハリーはその間自分では全く解決の手がかりをつかむ事が出来ないまま、図書室で眠りこけていました。
ハリーポッターの原作は巻を重ねる毎にどんどん長くなっているため、時間制限のある映画では忠実な再現が難しくなってきており、特に第3作あたりからどんどんダイジェスト版的になってしまっています。映像は良くできているのですが、ストーリーが今一つだなと感じられた方は、日本語版でも良いので是非原作を読む事をお勧めします。本当はこんなに深みのある話なんだと理解できると思います。
さて、ハリーポッターを読み終わってしまったので、次はどうしようかなと思ったのですが、子供の頃読んだ物語を原語で読んでみようと考えました。そこでコナン・ドイルのシャーロックホームズ短編集を買ってみました。が、これがとても難しい。斜め読みしようと思っても、あまりストーリーが頭に入ってきません。古いイギリス英語だからでしょうか…。意外な苦戦のため、現在は「積ん読」状態になっております。
やはり最近の作品の方が楽だなと思い、洋書コーナーで本を物色。ロードオブザリングとかナルニア物語とかありましたが、ファンタジーばっかり読んでてもなあと言う事で、当時、映画化前で話題になっていたダ・ビンチ・コードを読んで見る事にしました。
美術や宗教などに関係した見慣れない単語が多かったり、フランス語が挿入されていたりで、最初のうちとっつきにくかったのですが、話の展開とともに面白くなり、中盤以降はかなりのハイペースで読み進む事ができました。キリスト教の歴史などについて、世界史の参考書を買って勉強し直すきっかけにもなりました。
読んでいるうちにダ・ビンチ・コードの映画が公開されてしまいましたが、何とか公開中に読み終える事ができました。映画の評判は割と良かったので期待して映画館に出向きました。しかし…かなりストーリーが改変されており、謎解き部分も随分簡略化されてしまっていました。原作では、悩んで悩んで、豊富な知識を動員して考えた末に漸く糸口をつかんで解決していった謎も、映画だと一瞬のひらめきで解決してしまいます…。まあ確かに悩んでいるシーンばっかりでも面白くなさそうですけれど。
それよりもエンディング付近の話が集中的に改変されていたのが一番残念でした。原作では殺人者が味方の神父を誤って撃ってしまい、瀕死の神父を病院に運んで行った後に自殺しています。しかし映画では単なる悪者扱いで殺されて終わり。神父も原作では結構いい人だったのですが、映画では保身的で強欲な人間として描かれてしまっていました。原作ではソフィアの両親が実際には暗殺され、祖父はそれを自動車事故だったと偽っていたのですが、映画では本当に自動車事故にあってソフィアだけ生き残った事になっていました。その影響なのかソフィアの生き別れの弟が出てこない…。、映画を見ながら「おいおいそれはないだろう」と呟いてしまいました。
原作では何が善で何が悪なのかが混沌としており、登場人物の一人一人がそれぞれの善を信じて行動していた事が読み取れました。しかし、映画では、おそらく意図的に、善人は善人、悪人は悪人とはっきり示しているような印象を受け、違和感を感じました。
さて、ダビンチコードの作者ダン・ブラウンの著作で、主人公のラングドン教授が登場する最初の作品 Angels & Demons をこの3月下旬にようやく読みました。ダ・ビンチ・コードはフィクションとノンフィクションの境目が分かりにくかったのですが、この作品の方が荒唐無稽というか強引な部分が多いので、最初から安心してフィクションとして読む事ができます。
最初の被害者が殺人者に追い詰められ殺害されるシーンから始まり、次のチャプターで、寝ているラングドン教授が電話で起こされるという、ダ・ビンチ・コードと同じような展開で物語は始まります。スイスの研究所に呼び出されるラングドン。関係ないのに学問的好奇心からどんどん事件に首を突っ込んでしまうラングドン。面識の無い被害者の娘と急にパートナーをを組む事になるラングドン。だんだん恋心を抱くラングドン。何度も死にそうな目に会うが運良く助かるラングドン。最後の方で待つどんでん返し…。基本的な筋立てはダ・ビンチ・コードと似ていますので、安心して読む事ができます。(この作品の方が先ですから、ダビンチコードを書く時に意図的に似せたのでしょう…。)
面白かったので、569ページを1週間で一気に読んでしまいました。おすすめの作品です。ローマに行ってみたくなりました。変に映画化されない事を願っています。
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