書評 LONG WALK TO FREEDOM
ネルソン・マンデラの自伝、LONG WALK TO FREEDOM を読みました。妻の実家に置いてあった本で、南アフリカのケープタウン空港で購入したもののようです。Abridged Edition (要約版)なので、原文よりかなり短く、150ページほどしかなく、平易な英語で書かれていますので気軽に読むことができました。中学生の読み物にもできそうですが、Amazon.co.jpで検索しても原文のものしか出てきませんでした。Amazon.comでは検索できるのですが…。
生い立ちから、学生時代、弁護士としての独立と話は進みますが、面白くなってくるのはやはりアフリカ民族会議(ANC)に参加して、いろいろな政治活動が始まってからです。何度も拘束されながらも運動を続け、やがて変装して地下活動を行います。平和的な政治活動に限界を感じ、組織は武力闘争を選択します。マンデラは各国へ飛び、アパルトヘイトによって迫害されている黒人や有色人種の問題を訴え、財政支援や兵士の訓練などの協力を取り付けます。(この本には戦闘場面は出てきません。)しかしスパイに陥れられ、帰国する所を待ちかまえていた警察に逮捕されます。1964年に国家反逆罪のため終身刑を言い渡され、離島の刑務所に送られます。1990年に釈放されるまで実に26年間も刑務所で生活する事になります。
狭く不潔な独房での寝泊まり、重労働、ひどい食事、刑務官の嫌がらせ。刑務所内での過酷な試練にも、彼らの信念はくじける事はありませんでした。外の世界とは隔絶され殆ど情報が入らない中だったので、南アフリカで何が起こっているのか殆ど分かりませんでした。家族からの手紙も制限され、検閲によって半分以上の文面が消されました。年月の経過とともに国際的な圧力もあって刑務所内の待遇も少しずつ改善し、囚人たちは互いに先生となり、生徒となって勉強することもできるようになりました。マンデラは小さな菜園を作り、収穫された野菜が刑務所の食事として供されるようにもなります。幼児だった子供も成人し、孫も生まれるなど、本当に長い囚人生活だったのですが、マンデラ一家の絆の強さには感服します。
釈放の後、マンデラは合法化されたANCの代表に就任。民主化に向けた政府との話し合いのさなかも、反対勢力による武力攻撃が行われ、多くの犠牲者が出ました。1993年にノーベル平和賞を受賞。1994年に、南アフリカ初の民主的な議会選挙が行われ、ANCは過半数の議席を獲得。マンデラは大統領に選出されます。
想像を絶する苦難にもくじけることがなかった信念、家族への愛情には、強い感動を覚えました。マンデラが刑務所に入っている間の社会情勢は全くと言っていいほど描かれていませんので、南アフリカの民主化の歴史を学ぶためには、少し他の資料もあたる必要がありそうです。
民主化された南アフリカは、急速な経済発展を遂げます。例えば南アフリカ資本の携帯電話会社はアフリカ各国にネットワークを広げ、大きな利益を上げているようです。私も3年半前に飛行機の乗り換えの都合でヨハネスブルグに一泊しましたが、宿泊したホテルは、宿泊費はツインで確か7千円ぐらいだったと思うのですが、部屋も広くて設備も充実。カジノやフィットネスクラブ、SPA、屋内遊園地が併設されており、色々な人種の人たちで賑わっていました。またホテルからベンツEクラスのタクシーで案内してもらったショッピングセンター EASTGATE も巨大な吹き抜けがあるなど、とても豪華な作りで、ブランドショップなど様々なテナントが入り、多くの買い物客が来ていました。そこに行くまでの道路もアメリカの大都市の高速道路と全く遜色無い立派な物でした。ここだけ見ると人々は自由と、富を享受しているかのように思えます。
その一方で貧困は解消せず、格差は広がり、都市の治安は悪化しています。ヨハネスブルグは世界一危険な都市と言われ、旅行ガイドブックにも事細かに注意事項が書かれています。我々も、空港とホテルの往復はホテルの送迎バスを利用し、ショッピングセンターへもホテルのフロントを通して信用できるタクシーを手配してもらい、帰りも同じ運転手に迎えに来てもらうなど、万全の注意を払いました。
人種差別が無くなった南アフリカですが、解決しなければならない課題は山積しているようです。
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