国立湊病院の記憶2 文明開化
平成6年。国立湊病院で内科医として働き始めた我々を驚かせたのは悲惨な医療機器の状況でした。
統廃合対象の国立病院には厚生省からは十分な予算は振り分けられず、まさに「立ち枯れ」しつつある状況でした。
検査室にある細菌培養用の保温庫。キャビネットは木製でなかなか味わいがあるアンチークな昭和30年代の備品でしたが、30年の時を経てまだ現役で使用されていました。その他にも、耐用年数を遥かに過ぎた備品が、買い換え予算がおりないという理由でそのまま継続使用され、故障したらそれまでという状況でした。
小田先生が良く言っていた言葉は、「足らぬ足らぬは工夫が足らぬ」でした。備品が無い、金も無いが、ありあわせの物を流用したり、DIYで作ったり、工夫を凝らして何とか少しでも良い医療が提供できるように常に考えていました。
内視鏡(胃カメラ、大腸カメラ)の状況も悲惨でした。光学式のファイバースコープはグラスファイバーが多数断裂して、視野にはプツプツと黒点だらけ。光源装置も古くて、十分な明るさが出ず、あるいは点灯しない時もあり、胃の中を覗いても何やらぼんやり薄暗く見えるだけ。撮影したフィルムも殆ど真っ暗で読影に耐えない物ばかり。しかし、買い換えの予算は無し。
「足らぬ足らぬは工夫が足らぬ。」
小田先生が以前勤務していた聖隷浜松病院に、古くなって引退した電子内視鏡システムがありました。なんと病院と交渉して無料で譲り受ける事になりました。運搬は小田先生自らトラックを運転して…。
やってきた旧式の電子内視鏡システムが稼働する日がきました。モニターに写った画像を見て、「胃カメラってこんなに明るかったんだ。」「今の胃カメラはテレビに写るんだ。」と職員から感嘆の声があがりました。まるで文明開化でした。
しかし、これを機に国立湊病院の内視鏡診療のレベルは格段の向上を遂げ、ようやく「人並みよりちょっと下」になったのでした。そしてこの他院でお払い箱になった内視鏡システムはその後も3年以上に亘り、大活躍を続けたのです。
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コメント
病院問題は全国的に発生しており・・しかしながらやはり地元には病院が欲しいというのは我々市民の願いであります。
しかしながら今まであった病院が後2年弱で契約が切れで新しい病院になる?(予定?)
と言うのも何となく寂しい気がします。
本当にこの片田舎に病院が新設出来るのでしょうか?
今まで共立湊病院で頑張って頂いた(今も)先生方同等、またはそれ以上の先生が来てくれるのでしょうか?
高齢化に拍車がかかったこの町に本当に良い病院が出来るのでしょうか?
年寄りを抱えて心配です。
投稿: 一市民 | 2009年9月 2日 (水) 19時38分
きのじゅんさま
伊豆南部の地域医療について真摯に、そして卓越した御考察をなさってくださっている先生に敬意を表します。
現在、岐阜県の下呂市立金山病院がプロポ方式により建設計画を進めておりますが、伊豆南部の新病院よりも規模の小さな病院であるにもかかわらず、完成までに4年のスケジュールを組んでいます。新共立病院建設に残された日限わずかな状況の中で、診療にあたっで下さる職員の方々や診療を受ける住民が納得できる施設ができるのでしょうか不安でなりません。
小生は定年退職者でこれからしばらくは老いと手を携えて生きていかなければなりませんが、あまりにも新病院建設の情報が少なすぎます。地域住民の命と暮らしを守る病院の情報をもっともっと知りたいのはきっと小生だけではないはずです。
投稿: k@下田市民 | 2009年9月 4日 (金) 09時54分
一市民 さん、
k@下田市民 さん、
コメントをありがとうございます。
皆さんの抱いている不安はごもっともです。
生意気な事を言ってすみません。しかしただ不安だ、大丈夫だろうかと言っているだけでは問題は解決しません。
選定委員会の報告書で伊東委員長がいみじくも「地域医療は、地域全体で考え対処する必要があること。指定管理者が選定されたら、そこに任せておけばいい、という姿勢では公立病院の運営はうまくいきません。病院組合議会も住民も、批判者や傍観者としてではなく地域の主体者として、医療や福祉を中心にした地域づくり運動に参加しながら公立病院を支えていくという雰囲気を醸成していく必要があります。」と書かれています。
地元住民の方々にこそ、できる事があるのではないでしょうか。
投稿: きのじゅん | 2009年9月 4日 (金) 22時32分
きのじゅんが統廃合するの?
投稿: BlogPetのかぶりん | 2009年9月29日 (火) 14時20分