国立湊病院の記憶11 忘己利他
忘己利他と書いて「もうこりた」と読みます。「もう懲りた」じゃありませんよ。天台宗を開いた最澄の言葉です。そして、この言葉、自治医科大学初代学長の故中尾喜久先生の座右の銘でもあります。
「己を忘れて他を利するは慈悲の極みなり」
中尾先生は日本医学会長も努められた日本を代表する高名なドクターでしたが、権威を振りかざすような感じは全く無く、もの静かで、優しく、まるで高僧のような雰囲気を持つ方でした。
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国立湊病院の公設民営による地元への移譲を目指したプロジェクトは平成5年春にスタートしました。私が平成6年春に国立湊病院に赴任したときは、すぐにでも移譲が行われるのではという気分で行ったのですが、実際の話はなかなか進みませんでした。
「医療は本来国が確保すべきで、地元に押しつけるのはおかしい」、「国立から民営になると医療レベルが下がる」、「病院が生み出す巨額の赤字を地元は負担できない」 など、反対意見が続出しました。それまで伊豆半島には国立以外の公立病院が無く、地元自治体は病院の経営や医師確保に苦労した経験が無かったのです。静岡県内でも他の地域では公立病院の赤字経営改善や、医師確保が首長の悩みの種であったわけですが…。国立湊病院は「立ち枯れ」状況で、医療レベルが大変低い事もなかなか認識されませんでした。
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中尾先生はなかなか移譲の話が進まない事についても、「小田君、今は我慢しなければならない」とおっしゃられていたと聞いた事があります。
ようやく移譲に向けての話が進み始めました。国立時代の看護師長は地方医務局からの派遣で定期的な転勤があり、地域に根付くという事が困難でしたが、移譲に向けて地元出身の看護師から師長に昇格する形に変わり、内部からの意識改革や体制づくりが進んでいきました。他の職種でも地元出身の多くの職員さんたちが、国家公務員の立場を捨てて、地域医療振興協会の新しい病院作りに賛同して残ってくださいました。
平成9年10月、国立湊病院が地元へ移譲となり、共立湊病院として再出発しました。そのすぐ後に共立湊病院会議室で行われた静岡県地域医学研究会に、中尾先生ご夫妻をお招きして、特別講演をしていただきました。大変に嬉しい思い出です。
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それから早12年。再び我慢の時が訪れていますが、今こそ 「忘己利他」 を思い出して試練を乗り越えていきましょう。
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コメント
はじめまして。
先日、かかりつけではない共立病院さんに救急で搬送されました。深夜でしたが、対応していただいた先生を初め、看護師さん、事務員さんには大変お世話になり、感謝しています。私は下田に住んでいますが、てっきり今の先生方や看護師さんが、そのまま下田に来るものと思っていました。入院中に今後どうなるかわからないという話を聞き、大変心配に思っています。住民のほとんどがそのまま来ると思っていると思いますよ。確かに西川先生の評判も下田では良いですが、病院となるとどうでしょうか?下田病院さんとの関係もあまりいいとは聞きません。ひ☆せグループが絡んでいるとのうわさもあります。
きのじゅんさんの国立時代からの話を伺うと大変な苦労があり、委譲の数年前から病院再建に着手し職員の信頼を得たと感じました。現在の職員の方々はどのように考えているのか、またこれから来る先生方は、今までの先生方と同じように救急車を受けてくれるか心配です。市長や関係者には正確な情報を住民に向け発信していただくことを望みます。失礼しました。
投稿: 一患者より | 2009年9月30日 (水) 19時47分
一患者より さんコメントありがとうございます。
以下は、今のまま話が進むとしての私の予想(空想)です。
(アンケートのままなら)平成23年3月31日24時をもって共立湊病院の現スタッフは全員退職し誰も残りません。4月1日0時から聖勝会さんの雇用した全く別のスタッフで、現施設を使っての診療開始という事になります(^-^;
聖勝会さんの新病院計画(急性期90床、療養型60床)を考えると、150床全てを急性期病床として運営できるスタッフは雇用しないと思われるので、一時的に現施設を利用する場合でも、一部を療養型に転換する必要があると思います。
(もしも計画通りのスタッフを確保できた場合、)急性期病床と療養型病床の区分けを、急性期病棟2つ(運用可能90床)、療養型病棟1つ(50床)にするのならば、90人までの急性期の入院患者さんはそのまま入院継続できます。南伊豆・下田・河津地区には他に急性期病床は無いので、90を越えた分の患者さんは病状によって、①退院していただく、②療養型病棟へ入院、③伊東市や伊豆市などの急性期病床への転院 という選択をする事になるのでしょうか。
さて平成24年5月連休明け?に下田の新病院が竣工すると、最大140?人の入院患者さんを10km離れた新病院に移送する必要があります。スタッフも移動しなくてはなりません。直前のゴールデンウイーク中の救急体制確保には影響が出ないようにしてほしいと思います。
このように書いてみるとなかなか大変そうです。(このままという事はないと思うんですが…。)
投稿: きのじゅん | 2009年9月30日 (水) 22時50分