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2009年9月27日 (日)

国立湊病院の記憶10 院外処方箋発行システムを自作する

 平成9年10月に国立湊病院から共立湊病院への移譲が決定しました。土地と建物は地元市町村が構成する一部事務組合が所有し、病院の運営は地域医療振興協会で請け負う、公設民営方式となりました。

 とにかく赤字を出さない事が求められました。移譲時の経費を抑えるため診療報酬を計算するためのコンピュータシステム(レセコン)は、平成12年3月までは国立のものをそのまま使うことになりました。

 ところが移譲まで2カ月に迫った8月になって重大な問題に気づきました。

 国立から共立になるにあたって、院内処方から院外処方に切り替える事が決まっていました。病院の近くには賀茂薬剤師会の調剤薬局の建築が進んでいました。しかし院外処方箋をどうやって発行するのかが問題になりました。

・カルテの記載を見て医事課でレセコンに入力して処方箋を発行し、それをまた外来診療をしている医師に戻して確認を受けてから交付する…なんて事をやっているとかなり会計に無駄な時間が生じます。
・かといって医師の確認を受けなければ処方ミスが頻発する事になり大変危険。
・手書きの院外処方箋を発行する方法もありますが、悪筆で読めないとか、医師によってはきちんと書いてくれないとか、外来の都度毎回全部の処方を書き直さないといけない。

どの方法もうまくいきません。でも、各診察室で処方箋を入力発行するようなオーダリングシステムを入れるようなお金(億単位) はどこにもありませんし (地域医療振興協会もまだ規模が小さかった…) 、時間もありません。

「足らぬ 足らぬは 工夫が足らぬ」 … では、作ってしまいましょう。

 私が作って個人で使っていた院内処方箋発行システムのデータベース、それをクライアントサーバー環境でマルチユーザーで使用できるように改造する事にしました。準備期間は約50日。当直は免除していただきましたが、医師としての業務を続けながらの作業は連日深夜まで続きました。

 さすがに院内のLAN配線だけは自分ではできないので、それだけは業者さんにお願いしました。

 まずWindows NTサーバーをインストールしたサーバー用のパソコンをショップブランドで安く発注。平行して自分のノートパソコンのOSをWindows NTに入れ換えました。この2台を使って開発用のクライアントサーバー環境を作りました。いかにパソコン好きとは言え、ネットワーク構築は今までやった事がありませんでしたので、本を読んで勉強しながらの作業でした。

 次に処方箋発行システムの改造にとりかかります。既存のデータベースをデータ部分とアプリケーション部分に分離。データをサーバーに置き、アプリケーションはクライアントに置くようにして、マルチユーザーで利用できるようにします。次に院外処方箋発行のための処方箋書式の変更、保険情報の追加、不特定の人に使ってもらうためのユーザーインターフェースの改良、エラー処理(実はこれが一番厄介)を追加していきました。

 移譲の1週間前、ようやくクライアント用のパソコン20数台が納入されました。OSやソフトのインストール、ネットワーク環境の設定を行ったあと、各部署に設置し接続を確認していきます。医師や看護師のユーザーアカウントを作成し、院内電子メール機能も追加し、イントラネット用のホームページも作成しました。

 ここまでの作業は完全に一人でやってきましたが、最後最も大変な作業が待っていました。患者台帳、処方箋データの入力です。(レセコンからデータを拾えなかったため。)これだけは、内科と外科の医師全員の協力で手作業で行いました。一人あたり数千人分のデータ入力をノルマとして、頑張っていただきました。

 こうして、晴れて平成9年10月1日、静岡県知事も視察に訪れ、共立湊病院がスタートしました。同時に院外処方箋発行システムが稼働を始めましたが、肝腎の私は静岡県庁に辞令交付(国家公務員から静岡県職員に戻ったため)に呼ばれていて、稼働に立ち会えず気が気ではありませんでした。幸い動作自体に大きな問題は無かったものの、ユーザー数が多くなったせいか思ったよりも処理速度が出ず、しばらくの間は外来診療をしながらのチューニング作業が続きました。

 その後このシステムに、診療情報提供書+封筒宛名印刷や入院病歴作成、内視鏡台帳、入退院台帳などの機能を付加していきました。平成12年3月のレセコン更新時には懸案であったレセコンとの連携機能の追加とサーバーの入れ換えを行いました。この手作りシステムは近年のオーダリングシステム導入まで使っていただいたそうです。また、西伊豆の田子診療所では今でも現役で活躍しているとの事です。

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コメント

度々お邪魔します^^
きのぎゅん様書き込みを拝読しなければ、ドクター始め事務方の皆様のご苦労がこれほどのものであったのか知るよしもありませんでした。しかし、今の状況は移譲時において国・県主導により、構成市町が地域医療のためにと真剣に向き合っていなかったつけなのかもしれません。
さらに 西伊豆地域の住民としては懸念事項があります。田子と安良里両診療所の存続です。あれほど 地域医療のためにと貢献できる実態を新指定管理者や構成市町長らは知っているのでしょうか。勿論各診療所は独立採算で行われており、ある関係者は大丈夫と言っておりますが、その辺の情報はございますでしょうか。
また、ここで触れられておるように、きのじゅん様は辞令交付され湊病院勤務された訳ですが、県から辞令交付により湊病院に派遣されているドクターは新指定管理者の元にいかれるようになるのですか?

投稿: 西の住民 | 2009年9月28日 (月) 11時17分

西の住民 さん、いつも情報をお寄せいただきありがとうございます。
 ご指摘の通り、国立湊病院の移譲に際しては、国としては国立病院の統廃合を加速させるためのモデルケースとして、法律改正までして望みましたし、静岡県も地域医療の確保のために全面的な支援を行いました。県知事が開院日に視察に来たぐらいですから。
 移譲までの歳月の多くは、国立のまま残してほしいという地元市町村の「説得」に費やされたと思います。ちょっと国・県などがお膳立てしすぎた面があったかも知れません。今回自立してやろうという動きが出てきた、それ自体は良い事ではないでしょうか。もちろん、結果についても責任を取らなきゃいけないわけですが。
 以下は個人的な見解です。安良里診療所、田子診療所、いなずさ診療所とも地域医療振興協会の直営ですが、いずれも今回の件とは直接には関係していないので、継続されると思います。代診派遣などの支援を今まで湊病院でやっていた部分があるので、そういう変化は出てくると思います。
 自治医大卒業後の義務年限内の医師をどこの病院に派遣するかは、県の判断になります。静岡県内の多くの自治体病院が医師不足で困っており、どこを優先するのかという事になります。
(10月20日、安良里診療所に関する記述を修正しました。)

投稿: きのじゅん | 2009年9月29日 (火) 13時08分

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