湊病院問題 地方独立行政法人化 千葉県の国保成東病院の事例など
地方の中小公立病院を地方独立行政法人による運営に転換した例はまだあまり多くないようです。2010年4月から、二市二町による一部事務組合を解散し、山武市単独で地方独立行政法人を立ち上げる事に決まっている、「国保成東病院」→「さんむ医療センター」の事例に関する情報を収集してみました。
国保成東病院は2005年度末に医師の多数が同時に退職したのをきっかけに、病院経営が悪化。年に9億8千万円もの赤字を出したという悲惨な例です。同院の救急医療の受け入れ縮小が、連鎖的に周辺の病院にも悪影響を及ぼしていったそうです。再来年度の伊豆もそうなっているかもしれませんね。
連鎖的に危機に陥った周辺の病院は、県立東金病院が先日西伊豆病院の20周年記念式典で講演された平井愛山院長先生の元で、公立長生病院については、地域医療振興協会も関与してそれぞれ再生への道を歩んでいます。
国保成東病院については、県立東金病院、国保大網病院を含めた公立三病院の機能を集約した「山武地域医療センター」のちに「九十九里地域医療センター」が計画されたものの、一部事務組合構成市町間の対立もあり、計画が頓挫。成東病院の継続を求めた山武市が単独で病院を引き継ぐことになりました。3月末で国保成東病院の職員は全員割増退職金をもらって退職となり公務員の身分を失います。さんむ医療センターに勤務する人は再就職する事になるようです。成東の場合は、基本的に現在ある病院を、院長も変わらずそのまま引き継ぐ形のようですから、湊病院の事案とは随分と状況が異なりますが、それでも前例の無い果敢なチャレンジのようです。
なお地方独立行政法人には、もれなく「評価委員会」というお目付役がくっついてくるのがお約束のようです。(地方独立行政法人法 第2節) 「客観的評価」をするのが目的のようですが、「影の支配者」ともなりかねない諸刃の刃のような気もします。もちろん評価委員会の運営にも経費がかかります。「責任は負わない」、「口は出す」、「金はかかる」 では困りますが、信頼するしか無いのでしょうか。また理事等の人件費も民間ベースで考えると余分な出費となり、必ずしも効率的な組織と言えるのかどうか。公務員病院からの移行であれば確実に人件費の抑制にはなりますが、これまで指定管理でやってきたケースでは、却って経費が増えたりはしないのでしょうか。まだ調べきれていないのですが、どなたか、ご意見いただければ幸いです。
以下は参考資料へのリンクです。
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2005年3月?
ルポ医療の現場 疲弊する医師
不満募り次々退職
2006年07月09日
センター計画、具体性必要
自治体病院協会長が講演 山武
2006年09月20日
内科医3人確保へ
10月からと山武市長答弁 国保成東病院
2007年01月31日
山武市長が計画受け入れ
山武地域医療センター 半年の空転経て議論再開
2007年02月01日
計画受け入れで椎名市長会見 「孤立は市民に不利益」
反発から一転、苦渋の選択 山武地域医療センター
2007年02月14日
「九十九里」に名称変更 成東病院150に増床
6市町長が再修正案合意 山武地域医療センター計画
2007年03月06日
「医師の待遇改善急げ」
医師不足テーマに講演 城西大伊関助教授
2007年10月23日
内科閉鎖で収益大幅悪化
昨年度の赤字9億8千万円 医師不足の国保成東病院
2008年02月16日
4年越しの構想断念 九十九里地域医療センター計画
首長間の意見一致せず
2008年02月17日
「九十九里地域医療センター計画」断念
山武地域に動揺広がる 山武市長「成東病院守るため」
2008年12月23日
国保成東病院 独法化移行へ業務委託
単独運営も併せて検討 山武市議会
2009年04月23日
独立法人化向け協議会設置
国保成東病院の構成4市町
2009年06月06日
組合解散へ協議続く
国保成東病院の4首長会談
2009年10月01日
構成4市町が合意
成東病院の独立行政法人化 一部事務組合3月で解散へ
2009年10月21日
4月から独法化、正式決定
山武市単独に 組合立国保成東病院
2009年11月25日
地方独立行政法人成東病院評価委員会
2009年11月26日
病院名「さんむ医療センター」へ
成東病院の独立行政法人化 評価委員会が初会合
2009年12月27日
人件費や収支計画に意見
成東病院の独立行政法人化 評価委員会第2回会議
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さて、湊病院改革推進委員会の報告書8ページ(PDF9ページ)を見ますと、次のように書かれていました。
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(2)地方独立行政法人化についての考察
指定管理者制度でなく地方独立行政法人化という選択も考えられるが、運転資金が悪化した場合、経営は厳しいものとなる。また、法人独自の長期借入はできないことなど制約がある。
経営の独立性が保たれ、経営責任が明確になるなどメリットもある。反面、経営者の経営能力が大きな要素となる。
現状を前提に地方独立行政法人化を考える場合、次のような問題事項が考えられる。
① 自ら運営する自治体病院の組織、職員などが地方独立行政法人に移行するのではなく、民間組織が運営する病院から移行するため、建物、医療器機は保有しているが、職員等については、新たに法人の職員として募集し、組織を構築する必要がある。
② 建物等の出資のみではなく、経営が軌道に乗るまでの運転資金を用意する必要がある。
③ 多数の市町が関与する現行の枠組みでは、発足にいたる意見調整や事務処理が、指定管理者制度より難しい。
従って、諸般の事情で指定管理者制度が困難な場合などの選択肢として考えられる。
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ということで、地方独立行政法人化した場合は、自治体側が「運転資金」…億単位ですよね…を用意する必要があること、現病院のスタッフの殆どが残らない事が予想されるため、経営者=病院責任者を含めて全職員を新たに自前で探して雇う必要がある事などなど、問題点が多々ありそうです。素人目には指定管理の方がよっぽどハードルが低いように見えますし、改革推進委員会の報告書もそんなニュアンスのように思えます。(にもかかわらず、指定管理者制度が困難な場合に、更に困難な制度を選択肢にするという理屈は、全く理解できませんけどね。)
議会声明を出した組合議員さんたちは、何か具体的なプランを持った上で声明に盛り込んだのだとは思いますが…。まさか受け売りでは無いですよね。
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コメント
湊病院とは全く関係ありませんが、地方独立行政法人化の話題に関連したニュースが1月15日に流れていました。
地方独立行政法人化を計画している県西部浜松医療センターにおいて、浜松市が病院に対して行う追加支援の金額が合計86億円!!に達する恐れがあるというのです。内訳は債務超過が22億円、独法化後の運転資金が20億円、一旦退職扱いとなる現職員に対する退職金手当が44億円。うーん。浜松市民一人あたり1万円ぐらいの出費ですか。単純に病院の運営形態を変えるだけにしてはお金がかかりすぎますが、そうでもしてなんとか人件費を圧縮しないと先が見えないのでしょうね。
投稿: きのじゅん | 2010年1月17日 (日) 20時03分