湊病院問題 公立病院の建設費についての考察
ご さんにコメントでご紹介いただきました「伊関友伸著 地域医療再生への処方箋 2009年 ぎょうせい」を購入し読みました。著者は、元埼玉県職員で、現在城西大学経営学部マネジメント総合学科准教授をされています。伊関友伸のブログでもかつては湊病院の問題を取り上げてくださっていましたが、最近はすっかりご無沙汰のようです。
本の感想としていろいろと紹介したいポイントもありますが、今回はこの本の292ページあたりで論じられている公立病院の建設費に関しての情報を元に、下田新病院計画の17億円という建設費の妥当性について(素人ながら)考察してみました。
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⑥書籍292ページ
図表8 自治体病院の建築費
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図表8によると、自治体病院の建設費は1㎡当たり21.1~53.0万円となっていま
す。なお、建設費下位の2病院は療養病棟を半分以上持つ50および100床の病院
で、急性期を主体とする下田新病院とは機能的に差がある施設です。比較的湊病院に近い規模のものを探すと、H町立病院(一般194、結核5)があり、1床あたり面積87.9平方メートル、1平方メートルあたり建設費38.2万円となっており、建築延べ面積17500平方メートル、建築設備費66.96億円という金額です。下田新病院計画は154床でしたので、病床数で比例計算すると約52億円の建設費がかかる事になります。
下記に示す示す福祉医療機構の融資の基準と比べてかなり割高になっています。このような豪華病院の建設が、自治体病院の首を絞める結果になることには異論はありません。
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⑦書籍292ページ
図表9 2008年度(独)福祉医療機構の標準建築面積と単価
関連情報
・独立行政法人福祉医療機構のホームページ
http://www.wam.go.jp/wam/
・病院に対する医療貸付の説明
http://www.wam.go.jp/wam/gyoumu/iryokashitsuke/pdf/04_01_h21.pdf#09_byouin
書籍に書かれた、基準額と、最新の情報とに相違がありましたので、ホームページの情報も参考に考察していきます。
民間病院を新築する場合、独立行政法人福祉医療機構から融資を受ける事ができます。その算定基準となるのが標準建設費で、200床以下の病院ではその90%を限度して融資を受ける事ができるようです。この標準建設費が、民間病院建設における建設費の一つの目安となると思われます。
さて、機構のホームページの記載を読むと、融資対象面積は救急告示病院の場合病床1床あたり67㎡。154床計画だった下田新病院の場合は、10318㎡分までの貸し付けが可能ですが、実際の建設計画が9000㎡しか無いため、融資対象面積も9000㎡となります。新病院計画の病床1床当たりの面積は58.44㎡で、民間病院の基準と比較しても相当に手狭な計画となっていた事がわかります。
ここで面白い事に気付きました。後に県から新病院を災害拠点病院に指定して耐震補助を得るという話が浮上してきました。補助を受けるための条件として、平成22年度中の着工とともに、病床の1割を削減することになっています。新病院計画もその後135床で作る方向に変わっていたようです。135床 x 67㎡ で、9045㎡…。つまり最初から耐震補助金をあて込んでの135床・9000㎡計画だったのでは無いかと思えてきました。
建設単価は4階以下の耐火の病院施設は、23.77万円/平方メートルとなっています。設計管理費5%を加えますと、標準建設費は、
9000㎡の計画では (9000x237700)x1.05=22.46億円
限度いっぱいの10318㎡の計画では 25.75億円 となります。
こうしてみると新病院計画の建設費17億円(18.9万円/㎡)というのは、あまりにも少額過ぎるのでは無いかと懸念されます。既存の公立病院のような豪華病院を建てる必要は無いというのには同意できますが、地域唯一の急性期病院であり、災害拠点病院としての耐震性を備えた建物で無ければならない、また耐震化のために県からも多額の補助を得ようとしている事を考えると、計画の5割増程度の建設費がかかったとしても決して無駄遣いとは言えないのではと感じました。
http://kinojun.cocolog-nifty.com/blog/2010/03/11800-9b99.html でも触れていますが、湊病院と同じように長隆氏が改革推進委員長として関与した氷見市民病院の建設費を参考に考察を進めます。
同病院のホームページを見ますと新病院の延べ床面積は21435平方メートルで、250床ですから、85.74平方メートル/床となり、機構基準の70平方メートル/床 と比較して2割増し以上のかなりゆとりのある設計と言えます。建設費は45.465億円と書かれていますから、1818万円/床、21.2万円/平方メートルとなり、公立病院としては相当頑張って抑制された額であるとわかります。
この21.2万円/平方メートルを下田新病院に当てはめるとそれでも約19億円になります。しかし、氷見市民病院の施設が相当ゆとりをもったものであり、単位面積あたりの建設費は安くなりそうである事を考えると、病床数を元に計算した方がいいと思われ、その場合135床×1818万円で、約24.3億円という結果になります。
こうして考えていくと、下田新病院の建設費としては23-24億円程度が妥当なラインのように思えます。もちろん、素人による机上の計算のみでの話です。しかし、下田新病院に関して、改革推進委員会での議論に比べてもさらに安い建設費で済ませるような話をいったい誰が提案して、どのようなプロセスで決定されたのか、疑問に感じています。
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コメント
ヒント:病院の売り上げ
さすが優秀な公認会計士(笑)
投稿: トック | 2010年4月 4日 (日) 21時47分
トックさんのヒントについて考えていました。
参考になるのは第3回改革推進委員会の議事録
http://www10.ocn.ne.jp/~minatohp/data/kaikaku-no3.pdf
の22ページから24ページあたりの記述でしょうか。具体的に22億円という金額が出てくる一方で、減価償却は年間の医業収入相当が適当との意見もあります。湊病院の年間の医業収入は23億円ぐらいのはずですが、議論の中では20億円に割り引かれてしまっていますね。
投稿: きのじゅん | 2010年4月 5日 (月) 23時34分
今、病院のことについて知りたかったので、
とても役に立ちました(◎´∀`)ノ
投稿: 真美 | 2012年1月20日 (金) 18時55分
真美さん、コメントをいただきありがとうございました。大変お礼が遅くなり恐縮です。
大きな金額の話しになると、相場がどのぐらいなのか、我々素人にはなかなか実感できないのです。素人考察で的外れの部分もあるかと思いますが、多少なりとも参考になったとすれば幸いな事でございます。
投稿: きのじゅん | 2012年1月30日 (月) 18時24分