女川町医療支援活動報告10 避難所の巡回診療とクリーン大作戦
女川町役場の集計によると3月29日の時点で、町内21カ所の避難所で計2530名の方が避難生活をおくっていました。うち、800人近くが避難している総合体育館には鳥取医療チームの運営による救護所が置かれていました。また、町立病院に併設されている介護老人保健施設の建物は福祉避難所に転用され、認知症などケアが必要な高齡者などを中心に250名の方が避難生活を送っていました。(もともとの老健入所者は病院3階病棟に移動。)
避難所の中には、町の中心部から離れている所もあり、病院や救護所の利用が難しいケースがありました。18箇所の避難所に対して、鳥取、自衛隊、地域医療振興協会が分担を決め、週1-2回程度の巡回診療を行っていました。私は4月5日(火)に、3カ所の避難所への巡回診療に参加させていただきました。
最初に訪れたのは鷲神浜字荒立にある勤労青少年センターです。町の中心部から石巻方面へ向かう女川バイパスで上って行った途中から、少し左に入った所にあります。目の前の第一保育所も避難所になっています。
勤労青少年センターには137人の避難者が生活していました。小部屋がたくさんあるため、暖房も効きやすく避難所の中では比較的環境が良い施設のように感じました。避難所内の各部屋に声をかけてもらい、希望する人の診察を行いました。慢性疾患のある方は既に町立病院などを受診して内服薬を確保している人が多く、受診したのは咳1名、下痢1名の計2名のみでした。
次に巡回したのは同じ鷲神浜字荒立にある さくら集会所 です。女川バイパスからは右手に入った所になります。密集した住宅地の中にある地区住民のための集会所です。この地区は比較的高台にあったにも関わらず、海に近い側の一部の住宅に津波が押し寄せ全壊の被害を受けたため、19人の方が集会所で避難生活を送っています。ここはこじんまりとした避難所であり、物資や水の配給拠点にもなっていて、地区の人の交流の場として機能していました。
ここでも咳が出る方が2人受診。また持病に糖尿病を持つ方が、数日前から急に視力が低下したと言って相談に来ました。眼底出血が疑われましたが避難所では診療が難しいため、石巻市内で対応できる眼科に早急に受診するようにお話ししました。ただし問題は受診のための足が無い事です。JRやバスなどの公共交通機関が復旧しておらず、津波に巻き込まれなかった数少ないタクシーも、支援活動に利用されているため一般の利用が事実上困難です。車が流されずに済んだ人に送り迎えをしてもらうしかありませんが、今度はガソリンの入手困難が陰を落とします。
3カ所目は高白浜にある旅館 海泉閣 を利用した避難所。市街地からは5km程離れています。岸壁近くの道路は満潮近くなると冠水して通行困難になります。
海泉閣自体は見晴らしの良い高台にあり津波の被害はありませんが、海岸近くにある高白浜地区はほぼ壊滅状態です。本館と別館の大広間などで計200人の地域住民が避難生活を送っています。皆顔見知りらしく、子供たちは友達と廊下で走り回って遊んでおり、高齡者の方はちゃぶ台を囲んでお茶をすすりながらあんまんを食べている所でした。声をかけると何人かの方が集まってきました。やはり咳の出る方が数名。集団生活のため夜咳が出ると回りに気兼ねしてしまうのです。ついでに血圧を測って欲しいという方も何名かおられました。
今回は理学療法士の方が同行していました。気になっていたリハビリ利用者の方を探し出して、状況を尋ねたり、15分ほど避難所での運動指導を行っていました。
談笑の輪の中に入らず片隅で気力無さそうにゴロゴロしている男性が気になり声をかけました。身内を二人津波で失ったそうです。不眠、足の冷えなどの症状を訴えておられました。このような気になる方を把握し、行政やこころのケアチームに引き継ぐ事も避難所巡回の目的の一つです。(PTSDの疑いのある方に対して、心的外傷に関連する事を不用意に聞き出す事は避けなければなりません。今回の方は特に促したわけでは無く、身体症状を伺う中でご自分から色々と話して下さったものです。)
天気が良く暖かかったせいか、今回巡回した3カ所の避難所は比較的明るい雰囲気で、和気あいあいとしており、表面上は悲壮な印象を受けませんでした。しかし、家を流され今後の生活の先行きが見えない状況はかなりのストレスになっているものと思われます。
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私は直接参加していないのですが、最大の避難所である総合体育館では、衛生状態を改善し感染症の蔓延を防ぐため、4月1日に「クリーン大作戦」が行われました。我々と一緒に女川入りした3名の医学生が参加し大活躍してくれました。
作戦の目的は体育館床の清掃と土足禁止化による衛生環境改善、段ボール製パーテーション設置による最小限のプライバシー確保と飛沫感染防御、各避難者の専有面積の平等化であったと思います。避難している方々に一旦退出していただく事には、一部から不満の声があったようです。一方、後から避難して来た方々は館内に入れず、廊下での生活を余儀なくされていたため、不公平も生じていました。
クリーン大作戦は、避難者の一時退出、順番に館内の床清掃消毒、マットの敷設、段ボールパーテーション設置、避難者の再入館という手順で行われたようです。非常に地味な重労働ですが、大変重要な作業であったと思います。参加された皆様の努力には頭が下がります。お疲れさまでした。
このクリーン大作戦に習って、我々の寝泊まりしていた医局の床も遅ればせながら4月2日から土足禁止化されました。(^-^;
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我々と一緒に3月31日に女川に入り、クリーン大作戦にも参加したアジア医学生会議所属の医学生さんたちのレポートをネットで発見しました。とても素晴らしいレポートです。違う視点からの観察、私はあまり見る機会がなかった体育館避難所での生活の様子など、大変参考になりました。
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