カテゴリー「2012年6月Thomas Jefferson University Hospital 研修記録」の19件の記事

2013年7月22日 (月)

2012年6月Thomas Jefferson University Hospital 研修記録19 まとめ

英語について

 スピードの早い英語のリスニングが課題と考え、日常的にインターネットラジオでアメリカの公共放送ラジオを聴いています。聞き流しているだけですが、実際リスニング力の向上にはつながっていて、会話において、聞き直す頻度はかなり減りました。しかし、しかし。

 他人同士が英語で話しているのを聞きとるのは非常に難しいと痛感した1ヶ月でした。特に病棟回診。雑音が多い廊下で、抑揚に乏しく曖昧な発音で、データの羅列も多いレジデントたちのプレゼンテーションを聴き取る事は非常に困難で、断片的に単語を聞き取るのが精一杯。色々な人が多発的に発言するディスカッションもかなり難しい。もうちょっとゆっくり話してくれれば聞き取れそうですが、なかなかそんな配慮は期待できません。

 それに比べると1対1のコミュニケーションは理解がしやすいです。特に熟年の医師は落ち着いた話し方の人が多いので楽ちん。女性は全般に早口の人が多くて難敵でした。それこそマシンガンのよう。

 そんなわけで1対1コミュニケーションが主体となる外来のセッティングの方が、話がつかみ易いです。講義はスライドがあると内容が掴みやすいですが、実は読むことに集中してしまい、話している言葉はあまり耳に入って来なくなります。

 見学主体だと話す機会が意外に少ないので、1対1のディスカッションをする機会を極力作る事が話すトレーニングになります。今回最も話す機会が多かったのは、Jeff Hopeでした。医学生や入所者の方たちといろいろ話しましたが、特にインド出身の医学生から日本の医療や文化について色々質問を受け、活発なディスカッションができました。また医学生の診察時にアドバイスをする機会もありました。

写真撮影について

 研修中の現場での写真撮影には想像以上に注意を要します。かつてハワイで警備員に怒られた事が記憶にあります。今回の研修でも殆ど医療機関内の写真は撮っていません。 HIPPA(The Health Insurance Portability and Accountability Act)、HIPPAと厳しく言われる個人情報への配慮のため、患者さんの居る診療現場の写真を撮ることは基本的にできません。シミュレーション教育などの際にはその場の人に許可を得て撮影しています。また市街地でも治安の悪い地区では安全上の問題で写真撮影を避けた方がよいようです。

治安について

 渡航前にはフィラデルフィアは治安が悪いと聞いてびびっていました。実際に行ってみると市の中心部の治安はそんなに劣悪では無く、深夜に出歩いたり、裏道に入ったりしなければ比較的安全のようです。しかし、市街南部や北部の貧困地区では日中でも注意を要するようです。(まあ、そういう場所には用が無いので、行くことはありませんが。)

 結局、物おじせずあちこち出歩いてしまいましたが、ちょっと危険を感じたのは土曜日の朝の地下鉄駅。人が殆どおらず、電車の間隔もあいています。この時間帯の移動はバスやタクシーなどの地上交通や、本数の多いトロリーの方が良いかもしれないと感じました。フィラデルフィアの犯罪地図なんてのも公開されていますので参考に。 

 ペンシルバニアの田舎に行けばのどかで、のんびりとした週末をエンジョイできます。馬車と車が共存する生活を垣間見た事は大変貴重な体験でした。

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2013年7月15日 (月)

2012年6月Thomas Jefferson University Hospital 研修記録18 JeffHope

 Jeff Hopeは医学生が中心となって行っている医療ボランティア活動であり、活動の場はホームレスのためのシェルター(避難所)です。1991年に始まったそうです。奉仕活動であるとともに、まだ臨床実習の始まらない医学部低学年からの外来診療のトレーニングともなり、一石二鳥の活動と言えます。今回の研修のス ケジュールにはもともと組み込まれていなかったのですが、この存在を聞き、ボランティアのディレクターに連絡を取っていただき6月27日に母子シェルターであるACTSを、6月28日には男性シェルターのOur Brothers Place (OBP)での活動に同行させていただきました。

 ディレクターは高学年の医学生が務めています。年に40-50人の医学生がこの活動に参加しているそうです。ちなみにTJUの1学年の学生は260-270人との事なので、4学年で1000人以上。Jeff Hopeに参加しているのは20-25人に一人ぐらいという事で、そんなに多くはありません。

 医学生の低学年と高学年のペアで2つの医療チームを作り、実際の外来と同様に問診・診察を行います。内科・家庭医療・救急などの後期研修医か初期研修医 が1名スーパーバイザーとして来ていて、仕上げの診察と必要に応じて処方を行う形です。指導医クラスが参加する事はあまり無いそうです。薬学部の学生も参加し、シェルターに常備されている医薬品(期限切れ品やメーカーからの無料寄付品が主体)の管理や調剤を行っています。

 医療班の他にも希望者への血圧測定、 子供たちとのレクリエーションの他、OBPではリサーチも行われていた。診療は午後6時から9時頃まで。医学生ゆえ一人の診察に30分以上かかるので、1回の活動で10名程度の診療が限度です。血糖の他、HbA1cの簡易測定キットも持参していた。肺炎球菌ワクチンも所内の冷蔵庫に常備されており、対象者が居ると薦めてその場で接種していました。OBPでは無料のコンドーム配布も行っていましたが、持っていく人は少なかったようです。

 シェルターは使われなくなった教会などを利用しており、管理職員が常駐しています。中は思った以上に清潔に保たれており、不穏な空気なども感じられませんでした。高い喫煙率を反映してか、ニコチンパッチなど禁煙補助薬を希望する人も男女を問わず多くいました。男性入所者の中には統合失調症や鬱病と言われ向精神薬を投与されている人もいました。全体的な印象として母親たちの方が元気であり、子供たちはのびのびと遊んでいて、男性の方がだらしない感じです。

 OBPにはパソコン ルームがあり、入所者にはメールアドレスが配布され、ネットで就職情報を収集して自立につなげようという取り組みもなされていました。

 日本では診療所以外で人を集めて診療すると医療法違反になってしまうので、このような活動は非常時のみに限られてしまうでしょう。

 Jeff Hopeの活動では医学生や入所者の方々と近い距離で接する事ができました。日本の医療について興味がある学生も居て色々と意見交換もできました。大変有意義で楽しい時間を過ごすことができました。

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2013年7月 8日 (月)

2012年6月Thomas Jefferson University Hospital 研修記録17 The Joint Commission

 The Joint Commission (TJC)は、アメリカにおける医療機関の第三者評価機関です。その国際部門がJoint Commission International(JCI)です。

 研修初日オリエンテーションの後の午後に、TJUHのTJC対策チームの方々と面談する機会がありました。(病院内部を全く見ていない状況であったので、研修の中盤以降、ある程度内部の様子がわかってからの方が、色々と質問がしやすかったかも知れません。)

 アメリカの医療機関の全てがTJC accredited では無いとの話は意外であった。重要なのはContinuous readiness。認証は一応3年間隔だが、患者からのComplaintを受けて抜き打ち訪問が有り得るので、気を抜けないのだそうです。

 TJCの調査は以前はあら探し的なところもあったけれど、今では customer service、consulting、mentoringと性格が変わってきたそうです。他にも競合するサービスが出てきたのが理由だろうとの事でした。トレーサー調査は5日間であり、全てを見ていけるわけでは無いとの事。対策チームの会合は月1回1時間程度と、思ったよりも少ない頻度でした。多くの事が「やって当たり前」になっているのですね。

 リーダーシップ、トップダウンでCultural Changeを起こして行くことが必要との事。例えば上司に問題点を報告できる文化を醸成しなければ成らない、など。

 TJCの規格の中で困難なチャプターは、Environment of CareとMedical Recordだそうです。(JCIだと、FMSやMCIにあたるでしょうか。) Clinical Indicatorも大変では無いのかと尋ねたところ、これはTJCだけでなく、Medicareでも求められるので、自然と取り組む事になるからあまり 負担では無いとの回答でした。

 院内で気付いたTJCへの目につく取り組みとしてはJeff Chartのスクリーンセーバーを通じての情報提供がありました。名前が類似していて間違えやすい薬のリスト、使用禁止の略語などが表示されます。もっともこのような物は常時変更していかないと結局目に止まらなくなり、効果は限定的かもしれません。病棟の廊下もあまり広く無いが収納スペースも少ないようで、廊下にもカートなどが置かれています。ただし片側に寄せて極力通行の妨げに成らないように配慮されていました。与えられた環境の中で最大限努力している事が必要なのですね。

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2013年7月 1日 (月)

2012年6月Thomas Jefferson University Hospital 研修記録16 シニアセンター外来と糖尿病教室

Senior CenterのClinic

 6月28日の午前中にSenior Centerの外来を訪問しました。大学から南西に徒歩15分ほどの場所にあるサテライトクリニックです。その名の通り高齡者センターに併設されていますが、 患者は高齡者に限っているわけでは無く、この日も寧ろ若い人が多く来院しました。概ね近隣の方が利用しているようです。このクリニックでは採血は施設内で行っていますが、画像診断、超音波検査などは外部の検査施設に行って実施する必要があります。それが当たり前であれば慣れるのでしょうが、面倒臭いですね。

 日々の担当医は日替わりで1名ですが、診察室は4室あります。診察の手順は本院と同じなのですが、何となくのんびりした感じであり、職員数も少ないの で、より地域に密着している印象を受けます。今回は実質2時間程度の滞在でしたが、もっと早く存在を知っていれば良かったと思いました。忙しく、多くの研修医が出入りする大学のクリニックでは難しいけれど、こちらであれば少し時間をいただいて患者さんから病歴を聞いたりしやすいと感じました。

糖尿病教室

 Diabetes educatorの資格を持つ薬剤師も外来を持っており、この日は二人で半日9名の患者の診療を行っていました。医師では無いので診察はしませんが、自己血糖測定値やHbA1c値の確認、測定手技の確認(ちなみに指のアルコール消毒はせず、手洗いのみ)、インスリン量の確認、栄養指導などを行い、必要があればイ ンスリンの投与量の調節を行っています。患者さんは各自で自己血糖測定機器を持参し、小型の針捨て容器も一緒に!!持ち歩いていました。診療間隔は2-4週ごとで医師の診察よ りも頻繁です。なお栄養指導に関しては、ここでは"理解困難な細かなカロリーの話"は一切しないそうで、炭水化物制限、野菜摂取励行などが中心となっていました。

 金曜日の午前中にはDISH ( Diabetes Information and Support for your Health )と呼ばれる糖尿病教室が毎週行われています。第1週は概略説明、第2週は栄養と合併症、第3週は薬剤、第4週はcoping(困難への対応)と週替わりの内容になっていますが、どの週から参加しても良いそうです。この週は第5週だったので、Bonusとして野球仕立ての糖尿病知識クイズが行われました。この日の参加者は付き添いの 家族を含めて14名。途中、クイズそっちのけでディスカッションが白熱。問題の内容は、低血糖時の対処、食品の栄養表示の読み方、脱水時に見 られる症状、といった話題です。

 クイズが終了すると各自Action Planを提出して解散となります。Action Planは、ステップ1として、Healthy Food、Being Active、Monitoring、Taking Medicine、Reducing Risks、Healthy Coping、Problem Solvingの7ジャンルから一つを選択し、ステップ2でそれに対する障壁、克服プラン、サポートをあげ、ステップ3でプランを記述、ステップ4で10 段階のConfidence Scaleをつける、となっています。

このように教育や評価方法をシステム化するという点ではアメリカに見習う点は多くあります。

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2013年6月24日 (月)

2012年6月Thomas Jefferson University Hospital 研修記録15 訪問診療

 午後からのHome Visit訪問診療に同行しました。巡回範囲はフィラデルフィア市街の全域に亘っているため、午後の時間を全部使っても3~4軒の訪問しかできないとの事です。実際この日は3軒の訪問に3時間以上かかっていました。そのうち半分以上が車(カーシェアリングを利用し運転は指導医)での移動時間でした。訪問診療は 週2回行われ、ひとりの患者さんへの診療間隔は2-3ヶ月毎との事です。毎回同じ医師が行くわけではなく、必ずしも患者さんの背景を良く理解しているわけではないようです。指導医の他、後期研修医やソーシャルワーカーも同行します。この日は私も入れて実に5人での訪問でした。

Slope 最初に訪れた家では、患者さんはトイレに座ったまま出て来る事ができず。トイレの中まで入って血圧を測定し、診察をして終わりました。(私は結局患者さんと顔を合わせずじまい。)2軒目の家は老姉妹の二人暮らし。今は寝たきりになってしまいましたが、階段には電動の昇降機が付けてあったり、玄関の階段にはスロープが作ってあったり、以前はもう少しADLが良かった様子が伺えます。ベッドの周囲の手の届く所に色々な物が置かれている様子は、日本の訪問診療先でも良く見かける光景です。3軒目は本日が初訪問。孫と暮らしている87歳の老女でした。2階で生活していますが、歩行器が無いと歩けないため階段を降りる事ができず、外出は不可能です。指導医は訪問理学療法のサービスを受ける事を薦めていました。しかし、認知症があるようで何度言っても「それは何」という返事しか帰って来ません。仕方がないのでお孫さんに伝言メモを残してい く事になりました。

 日本の場合は玄関の内側に段差がある場合が多いですが、このあたりの住宅は玄関の外に数段の階段がある場合が多く、高齡者にとっては外出の障壁になっていると想像できます。写真のような後付けのスロープが作られているケースは、あまり多くは見かけませんでした。

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2013年6月17日 (月)

2012年6月Thomas Jefferson University Hospital 研修記録14 家庭医療科の特殊外来

 特殊外来として、Sports Medicine、GYN Procedure Clinic、Procedure Clinic、Warfarin Clinic を見学しました。また難民の健康管理を行うRefugee Clinicも見学しました。

 Sports Medicineは別にスポーツ選手を対象にしているわけでは無く、いわゆる”整形内科”的な診療を行っています。診断と理学療法、関節注射などが主体。関節注射としてはヒアルロン酸や、ステロイド(ケナログ懸濁)が使われていました。担当のDr.曰く、注射を安易にすると理学療法を真面目にやらなくなる。殆どの患者は理学療法 で改善するのだが。だからできるだけ注射はしたくないと言っていました。このクリニックにも週1回研修医がローテートしており、診察や治療手技を勉強していきます。

 GYN Procedure Clinic(婦人科処置外来)では、PAP smear(子宮頚癌検診)や、IUD(子宮内避妊器具)の入れ換えなど婦人科的な処置が行われます。こちらも研修医に集中的に手技の経験を積んでもらうのが目的と思われます。この外来でBMI75というものすごい肥満の方を見かけました。なんと標準体重の3.4倍です。ここまで来ると診察する事さえ困難です。

 Procedure Clinic(処置外来)は小外科処置の専門外来です。見学した日は予約患者の大半がなぜか来院せず、10日たった縫合創の抜糸と、皮膚の角化病変が気になっている研修医が患者となって皮膚生検を行った2例だけの受診でした。

 上記3つの特殊外来では、看護師は注射薬や道具を用意するものの、診察室に入って処置をサポートする事は全く無く、医師が自分で準備から片づけまで 行っていました。このような「業務分担」が他の部署でも一般的なのかどうかは確認していませんが、日本で看護師さんの仕事として持つイメージと随分違いますね。

 Warfarin Clinic(ワーファリン外来)は抗凝固剤Warfarinの投与量の調整を一手に担っています。ワーファリンは治療に必要な投与量の個人差が大きいため、プロトロンピン時間という検査の結果を参考にして、薬の量を調節する必要があります。対象疾患としては、心房細動と深部静脈血栓が殆どです。担当は指導医1名と後期研修医1名 で、午後の半日で27名もの予約が入っていました。ひたすらプロトロンビン時間を確認して、出血などの副作用のチェックをして、投与量を調節し、次回の受診日を指示するという作業が続きます。目標のプロトロンビン時間のはINR2~3でした。投与量は日本と比べると非常に多く特に黒人では50mgぐらい投与する事もあるといいます。錠剤は1mg、2.5mg、 5mg、10mgを組み合わせて使い、半錠にしたりする事はありません。まあ、ボトル処方なので錠剤分割は馴染まないのでしょう。

 後期研修医に日本では0.25mg単位で 調節する場合さえあり、5mgまで投与する事は非常に少ないよと伝えたら大変驚いていました。

 Refugee Clinic(難民クリニック)は2007年からJFMAのDr. Altschulerと、National Service Center(NSC)によって開始されました。難民の出身国はイラク、ブータン、ミャンマー、コンゴ民主共和国、ソマリア、リベリアなど。クリニックの目的 は入国後の健康チェックで、この事業において先進的なMinnesota Department of HealthのRefugee Health Programに準拠しています。

 まず、過去の病気や生活などヒストリーを詳細に聴取するのですが、全く英語が話せない人も多く、各国語の通訳サービスに電話して3者でのやりとりになるため大変時間がかかります。医師は質問したい事を、電話で通訳サービスに話し、その後電話を患者さんに渡して質問に答えてもらい、その後にまた医師が電話を返してもらい、通訳から答えを聞き出します。そのため一人の診察に1時間ぐらいかかってしまいます。

 事前に血液検査やクウォンティフェロン(結核感染の可能性を調べる検査)などが実施されており、検査結果の確認も行われます。難民といっても皆清潔で、身なりもしっかりしており、 iPhoneを持っている人までいました。(指導医の中には、通信費が高くてiPhoneなんて買えないと言っていた人もいたのですが…。どうなってるの。)

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2013年6月10日 (月)

2012年6月Thomas Jefferson University Hospital 研修記録13 家庭医療科の外来診療

 

Exam1  JFMAの外来は大変大きなフロアになっており、4チームに分かれています。各チームで使う診察室はだいたい決められていますが、運用が回らなくなると他のチームの部屋を借りる場合もあります。チーム4は特殊外来で使われる事が多いようです。

 アメリカの場合、日本やイギリスとは異なり、一人の予約患者に一つの診察室を割り当てて、そこで待機してもらい、スタッフの方が部屋を渡り歩く仕組みになっています。そのため、同時に診察する医師数の3-4倍の診察室が必要となります。Exam2

 診察室の構造は過去に見学したオレゴン健康科学大学(OHSU)の関連診療所の外来と大きな変わりはありません。診察室内には診察台(下半身を乗せる部分と、婦人科診察用の足乗せが 引き出せるようになっている)、洗面台、血圧計、耳鏡、眼底鏡、針の廃棄容器、ごみ箱(感染物とその他)などが備えられています。診療の流れもほぼ同様です。受付後、看護師が血圧や体温、脈拍などのバイタルサインを測定します。体温は使い捨てのセンサーで舌下温を測定していました。その後に患者さんは診察室に案内され、雑誌を読んだりしながら医師が来るのを待ちます。

 OHSUでは診察室の入口に進行状況を示すサインが掲出されていましたが、こちらでは見かけなかった。クリニック内で行われるプロセスが少ないためからもしれません。診察時に使う書類は診察室扉のホルダーに入れられている場合と、カウンター横の籠に入れられている場合があり、チームによってやり方が異なっていました。

 TJUHの場合、血液検査、画像診断、内視鏡検査、超音波検査などはそれぞれ別のビルに入っています。そのため診察の数日前までに別途来院して検査を済ませておく事になります。心電図、PT-INR、血糖、検尿程度はクリニックでも可能ですが、例えばレントゲンを当日撮ることは事実上不可能です。そのような必要がある場合は救急部へ紹介する事になります。

 研修医の外来研修だけでは無く、指導医自身の診察を見学する機会があり、興味深く拝見しました。指導医は15分毎に1人の予約がびっしりと入っており、意外と時間に追われていました。頭のてっぺんから足の先まで診察するような時間は無く、効率よく要点を絞っての診察が必要です。

 日本の家庭医療の現場では、患者との距離とか、目線の高さとか、椅子の種類だとか、診察環境作りも重視されているのですが、これらの点について余り気にし ていない医師が多いように見受けられました。そんな中、ある60代のベテラン医師は、患者を自分のすぐ隣に座らせて、一緒に電子カルテの画面を見せ、内容を読み上げながら入力するなど、大変共感できる診療スタイルでした。30年以上の付き合いになる患者も多く、お互いの信頼関係がにじみ出て、大変和やかな雰囲気の外来診療でした。

 医学生の外来研修も行われていました。研修は指導医1名に1名の学生が付く形で行われます。指導医がまず患者に挨拶して、学生が診察する事への了解を得る。学生が時間をかけて問診を取り記録をします。その間に指導医は次の予約患者の診察を行います。予約患者2人ぐらいの診療が終わる頃、ようやく学生の診察が一段落するので、学生が指導医に声をかけ、指導医が記載内容をチェックして、自ら患者を診療するという順番になります。日常業務の回転と、学生指導を両立させるのにはうまい方法です。

Photo  研修医への指導は、一人の指導医がプリセプターとなり、最大4人の研修医の外来を管理してまいます。内科と同様6月は年度末。PGY3の後期研修医は既に仕上げ段階となっており、基本的には自立して診療を行い、指導医はプレゼンテーションを聞いてサインするだけの場合が殆どでした。経験の浅い研修医の 場合は、一人一人一緒に診察しなければならないので、新人が入ってくる7月は大変なのだそうです。後期研修医がプリセプターにコンサルテーションする場とし ては、広いプリセプタールーム(写真)が確保されていますが、多くの人が出入りして落ち着かないため、自分のオフィスのある指導医はそこで指導を行っていました。

 患者さんたちを見ていて感心したのは、殆どの人が自分の投与されている薬の名前や投与量を知っていた事。アメリカでは日本で良く見られるPTP(Press Through Pack)では無く、ボトルで調剤されるため、見た目がよく似たボトルから正確な錠数を取り出して内服する必要があります。薬の事をよく把握している背景にはそのような事情があるのかも知れません。

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2013年6月 3日 (月)

2012年6月Thomas Jefferson University Hospital 研修記録12 家庭医療科の病棟とGrand Round

 4週間の研修のうち、後半2週間はFamily and Community Medicine(家庭医療科)での研修でした。このセクションは、Jefferson Family Medicine Associateと呼ばれJFMAと略されています。所属する後期研修医は各学年10名程度との事です。家庭医療科では病棟診療と外来診療の両方を同じ医師たちが担当しています。

 初日は病棟回診からのスタートでした。そのやり方の基本は内科と変わりはありません。

 家庭医療科の入院担当は1チームのみ。後期研修医2名、初期研修医3名で、家庭医療科の入院患者を全て(10人から最大30名程度)担当します。内科と異なり入院に特化したチームでは無く、午後には外来診療も行っています。指導医も午前中に外来診療の無い日に日替わりでの担当となります。午後からは外来診療があるため、午前中の指導医回診時に 原則として全員を診察しています。患者数が多いときは昼食時間が無くなってしまう事もあるそうです。

 もともとJFMAにかかりつけの患者さんが入院になると、担当は家庭医療科になります。ですから対象疾患は一般内科よりも広範囲となります。入院前のバックグラウンドを知る医師の診察を受けることで、入院中や退院後のケアにも継続性が確保されやすいという点が大きなメリットです。(ただし、指導医は日替わりですからその患者の外来担当医が毎日入院診療を行うわけではありません。)JFMAかかりつけの患者さんも集中治療室にいる間は集中治療科が担当しますが、そこから一般病棟へ移った場合は家庭医療科の担当に変わる事になります。

Grand Rounds

 毎週水曜日の8時から9時までGrand Roundsが行われています。今回は年度末の進級時期にあたっていたため、1週目は後期研修医が1年間取り組んで来た事を各自発表しました。

 2週目は M&M(Morbidity and Mortality)として、病棟管理に難渋した症例などの紹介がありました。もともと精神疾患のある患者が集中治療室を退室して一般病棟に移動。しかし、不穏のコントロールができず、色々トラブルを起こした結果、再度集中治療室に戻った症例について発表がありました。転科を受け入れるべきだったのかとか、コンサルトした精神科との関係な どが議論になっていました。

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2013年5月27日 (月)

2012年6月Thomas Jefferson University Hospital 研修記録11 内科の外来研修と新研修医基本手技トレーニング

後期研修医の外来診療 Continuity Clinic

 内科の後期研修医は研修期間を通じて継続的な外来研修を行っています。この日は3人の後期研修医に対して、一人のプリセプターがついて外来を行っていました。プリセプターとは、研修医の指導を専任する指導医です。ちょうど年度の入れ代わり時期 だったので、PGY3(卒ご3年目、日本の制度では卒後5年目相当)の後期研修医は研修の最終段階にあり、ほぼ自立して診療を行っていました。しかし逆に年度変わりの7月はプリセプターがつきっきりに近い形での指導が必要となるので、負担も大きくなるそうです。(まあ、どの業界も同じですね。)

 患者さんの受診頻度は数ヶ月に1回。研修のローテーションの関係もあって、「継続」研修外来といいながらも、その都度診察する研修医が変わってしまう事が多いようです。毎回初対面なので、患者さんとの関係も構築しにくく、病状の把握に毎回時間がかかっていました。また、この外来だけでなく他にも複数の専門科に受診している患者さんも多いので、継続研修外来への通院目的が不明確な場合もあり、十分な治療介入も困難なケースも見受けられました。ACGMEで必須とされていますが、これに関しては要改善という印象を受けました。

新入初期研修医への基本手技シミュレーション教育

Cv_2  先程も述べたように6月と7月が年度変わりの境目です。シミュレーションセンターでは、7月から臨床研修が開始となる内科の新入初期研修医に対して、シミュレーターを用いた処置手技のトレーニングを行っていました。

 内容は創の縫合と糸結び、末梢静脈ルート確保、腰椎穿刺、中心静脈穿刺など。中心静脈穿刺ではガウンやフェイスシールド付きマスク、滅菌手袋を装着 し、術野の消毒、ドレープ設置など実際の手順通り手を抜くこと無く実施されていました。教員自らが処置台の上に寝て、内頚静脈の超音波観察の被験者を務めていました。中心静脈穿刺については、鎖骨下、内頚、鼠径の3経路のトレーニングが行われていました。日本では気胸の合併を嫌って鎖骨下穿刺が回避される傾向にありますが、TJUHでは感染リスクの低さや固定の確実さなどを理由として鎖骨下静脈穿刺も好まれているようでした。

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2013年5月20日 (月)

2012年6月Thomas Jefferson University Hospital 研修記録10 シミュレーション教育

Simulation1 2012年6月7日の午前中は後期研修医4名を対象としたシミュレーション教育を見学しました。 

 まず9時からはマネキンを使って急変対応のシミュレーション教育が行われました。シナリオはNight Float(夜勤担当チーム)の設定で、サインアウトシート(日中のチームからの申し送り書)に書かれた、限られた情報だけで対応する事が求められる設定でした。

Simulation2 1例目は嘔吐後に食道穿孔を起こした症例でした (Boerhaeve’s syndrome)。レントゲンで消化管から漏れだしたフリーエアを見抜ければ正解にたどりつけます。2例目は大動脈解離の症例で血圧の左右差に気付くかどうかがポイントでした。3例 目は右室の心筋梗塞で右胸壁心電図をとるかどうかが診断のポイントでした。もしうかつに亜硝酸剤(ニトログリセリンなど)を投与すると血圧が下がるようにシナリオが設定されていました。4例目は血圧低下 と洞性頻脈をきたした後腹膜出血の症例。5例目は悪性高熱でダントロレンの投与が行われるかがポイント。6例目は気管支喘息重積発作で挿管となる症例でした。

 Heart_man 続く10時からのセッションは、ベテランの医師による聴診のシミュレーション教育。様々な心音、心雑音を発するマネキンと伝送聴診装置Heart Man(写真)を用い、多人数で同時に聴診を行う事ができます。Ⅱ音の分裂の聴き分けについて歴史や病態生理を交えた明解で面白い解説も印象的でした。このような素晴らしい教育者がいることは大変大きな財産であると感じました。

 6月8日の朝は初期研修医5名を対象にしたシミュレーション教育を見学しました。

 症例1はアナフィラキシー、症例2は気道閉塞、症例3は心嚢水貯留、症 例4は徐脈から心室細動に移行し、心肺蘇生を行いました。後期研修医向けと比べるとシンプルなシナリオではあるものの、研修医たちが自分たちだけでまずまず適切に対応できている事に感心しました。

 上記のシミュレーション教育に引き続いて初期研修向けにベテランの医師が病棟を回って特徴的な身体所見を解説するという、これも非常に興味深い Master Clinician Roundsに同行しました。1例目は皮膚筋炎でヘリオトロープ疹、Poikiloderma、爪の付け根の発赤、近位筋の筋力低下、MP関節の石灰化などを 診察。2例目はHereditary Hemorrhagic Telangiectasisで、舌の毛細血管拡張を診察。3例目は透析中の心不全症例で、ここでも伝送聴診装置が活躍し、聴診所見を皆で確認する事ができました。

 五感を駆使した診療を指導できる優れたteacherの存在がTJUHでの研修医教育に深みを与えている事が実感されました。

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