カテゴリー「2012年シンガポールJCIプラクティカム」の8件の記事

2013年2月21日 (木)

2012年シンガポールJCIプラクティカム8(完) まとめ

 アメリカでは The Joint Commission (TJC)が標準化しており、その規格に則る事が「当たり前」になっています。例えば針を捨てる容器は子供の手が届かないような高さに固定されている必要がありますが、それが当然なので最初からそのように設置されています。働く側もどこに行ってもそうなっているので、当然のものとして身に染みつきます。しかし、意識化しておかないと、違う環境ではたぶん自ら主体となっては実践できないはずです。

 アメリカの医療機関では常識とも言えるTJCですが、その認証維持は楽ではないようです。抜き打ちTracerなど調査手法は更に高度になっているそうです。以前アメリカで,ある病院幹部に「TJCに準拠しようとしない職員はどうするのか」と尋ねたところ「解雇する。」との返事でした。厳しいですね。(他の医療機関からもはじき出される事になります。)

 日本にも病院機能評価制度があります。つい「評価をパスするために頑張る」となってしまいがちですが、Joint Commission International の認証取得は、それだけでは歯が立ちません。PDCAサイクル(Plan-Do-Check-Act) がきちんと回っていること、医療の質の改善が実現されている事が臨床指標で示されているところまで求められます。

 日本には「阿吽の呼吸」という言葉があって、何も言わなくてもお互いが理解しあっていて、うまくできる事を良しとする文化があります。しかし熟達した人たちで無いと実践できないような仕組みは国際的には広くうけいれられません。お互いに何をするのかを明確に伝え、確認し、実行した後に評価し、次にもっと良くするための方法を検討しなくてはいけません。

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2013年2月14日 (木)

2012年シンガポールJCIプラクティカム7 5日目

 いよいよ最終日の5日目です。(2012年4月27日)下記の6つのセッションが行われました。全体を総括するような内容です。

(1) Applying Standards to Situation Workshop
(2) Lessons Learned from JCI Accredited Organizations
(3) The Cost of Accreditation
(4) Quality and Patient Safety
(5) Getting Started Advice for those seeking their first Accreditation
(6) Closing Remarks

 (2)のセッションでは,実際に認証を受けた2つの病院の担当者から、認証を受けるまでの取り組みについて体験をもとに説明を受けました。

 (3)のセッションでは認証にかかるコストについて説明がありました。病院の機能や規模によって派遣されるTracerの人数や滞在日数が異なるため単純には言えないが、平均すると48,983ドルの費用がかかっているそうです。これにサーベイヤーの交通費や滞在費が加算されます。

 コストはこれだけに終わりません。ベースラインサーベイやモックサーベイ(模擬サーベイ)など、JCIコンサルタントによる支援サービスを多く利用すると、病院職員の負担は減りますが、コストは高くなります。

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2013年2月 7日 (木)

2012年シンガポールJCIプラクティカム6 4日目

 4日目(2012年4月26日)のレポートです。

 午前中は再び貸し切りバスに乗り、郊外にある巨大病院へ。本日の模擬tracer.は産婦人科のPatient Tracerです。これは選んだ一人の患者さんの動線を追って、病院の受け付けから、外来受診、入院、分娩室、手術室とトレースして行きます。施設内の移動中も廊下にある扉の施錠状況や、業務用の足場など危険の潜んでいる箇所が無いかの確認を怠りません。

 病棟では担当看護師、病棟薬剤師、担当医を呼んで質問。薬剤師には,新生児へのHBワクチン接種における注意点、蘇生の講習の受講の有無、正しい患者かどうかの確認方法など。看護師には助産師への電話での連絡方法、スタッフの充足状況、、新生児盗難対策など。

 産婦人科外来での質問は、ここで患者が倒れたらどうするか、救急カートの内容の確認方法、火災訓練など。分娩室では浴槽の清掃方法、水質点検、帝王切開が必要になった場合の連絡方法、NICU管理が必要に なった場合の移送方法、新生児用の救急カートの内容とチェックの頻度、除細動器の点検頻度、カート内 の採血管の有効期限の点検、薬品の保管の指針と、非常に多岐にわたりました。

 手術室ではタイムアウト(手術開始前に一旦手を止めて,必要事項の最終確認を行う事)の方法が確認されました。この病院ではタッチパネルで8項目を全て実施・確認しないと手術が始 められない仕組みになっていました。.
(1)手術チームがお互いに自己紹介
(2)患者の認証
(3)手術の部位と術式
(4)手術部位のマーキング
(5)術 前1時間の抗生物質投与
(6)重要な画像の掲示
(7)特別な道具やインプラントの種類
(8)手術の体位

 午後からは会議場に戻り、再び全体講義。下記の3セッションが行われました。

(1) Library of Measures and Data Validation
(2) Continual Improvement
(3) Tracer Demonstration Discussion

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2013年1月31日 (木)

2012年シンガポールJCIプラクティカム5 3日目

 3日目(2012年4月25日)の日程です。終日2チームに分かれての行動です。

 午前中は初回の模擬Tracerが行われました。いくつかのグループに分かれて各グループ1カ所のJCI認証病院を貸切バスで訪問しました。なお、病院名は公表してはいけない約束です。各グループ1名のJCIコンサルタン トが同行しTracer役を務めました。

 私のグループが訪問したのは市街地にある三次救急病院。建物は古くて狭く、カルテは紙ベース。JCIを取得するのにはシステム作りと職員教育が重要なのだと実感されます。

 神経内科の病棟を中心に見せていただきました。初期評価、転倒リスク評価、疼痛評価、患者教育、退院計画など、求められている個々の評価項目はきちんとフォームでチェックされていました。職員の休憩室には、転落件数の推移などいくつかの臨床指標が掲示され ていました。

 この病院では患者の半数以上がインドネシアなどの外国人で、看護師も40%以上が外国人なのだそうです。そもそもシンガポール自体が多民族国家で、公用語も4つあります。多様な人種、言語、宗教的な背景があるなかで、JCIを医療の質と安全を達成するための共通言語として利用する事に大きな意味があるのだと思いました。

 午後は会議場に戻り,2つのセッション(グループワーク)が行われました。

(1) Survey Simulation Discussion and Reflective Learning
(2) Failure Modes and Effects Analysis (FMEA) Workshop

 (1)では午前中の模擬tracerを振り返り、ディスカッションを行いました。

 (2)のFMEAは、事故を未然に防ぐための複雑な分析手法ですが、解説と演習で1時間20分というスケジュールには無理があり、残念ながら実践的な体験とはなりませんでした。

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2013年1月24日 (木)

2012年シンガポールJCIプラクティカム4 2日目

 2日目(2012年4月24日)の日程です。午前中は
(1) JCI Evaluation Methods: Tracer
(2) The Survey Simulation
(3) Challenging Standards
の3セッションの講義が行われました。

 (1)ではよりも具体的にPatient TracerとSystem Tracerの内容が解説されました。(2)では病院見学での注意点や現場で確認すべき点について触れられました。(3)ではこれまでに認証をうけた医療機関において達成率が低かった規格が紹介されました。危険物の取り扱い、安全で安心な施設、患者記録の完全性の定期的な検証、各スタッフにより提供されるサービスの質と安全性の評価などの規格の達成率が低かったそうです。

 午後からは二手に分かれます。半分は実際にJCI認証をうけた病院に行き、模擬Tracerが行われました。私は会場に居残り下記の3セッションを受講しました。午前中までの全体講義形式から、小グループに分かれてのグループワークが中心でした。

(4) Case Study 1
(5) Root Cause Analysis Workshop
(6) International Patient Safety Goals

 (4)ではTracerの質問にどのように答えたら良いかの机上シミュレーションが行われました。(5)のRCAは日本語では根本原因分析法と呼ばれ、医療安全上起こった問題に対して、どうしてその問題が発生したのか遡及的に検討するものです。通常これだけで1日費やすものです。1時間程度のセッションでは通り一遍の解説にしかなりませんし、ワークショップも不十分なものでした。

 (6)ではJCI規格の中心となるIPSGについての解説が行われました。IPSGは各規格の中で最重要と考えられるものを別格で抜き出したもので、病院向け規格Ver4では以下の6つになります。

IPSG.1 Identify Patients Correctly
IPSG.2 Improve Effective Communication
IPSG.3 Improve the Safety of High-Alert Medications
IPSG.4 Ensure Correct-Site, Correct-Procedure, Correct-Patient Surgery
IPSG.5 Reduce the Risk of Health Care–Associated Infections
IPSG.6 Reduce the Risk of Patient Harm Resulting from Falls

 日本で医療安全関連の講習などを受けますと、殆どの事例がIPSGの項目に収束していきます。なるほど重要なんだなあと感心させられます。

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2013年1月17日 (木)

2012年シンガポールJCIプラクティカム3 1日目

 1日目(2012年4月23日)のセッションは以下の6つで、基本的に座学でした。講師を務める各コンサルタントは、アメリカから来た人だけでは無く、中国系、インド系など様々。英語にもかなり国ごとの訛りが出ますし、女性などはかなり早口なのでで、ある程度の基礎知識と資料はあっても、フォローするのは大変でした。

(1) Introduction of Joint Commission International and Practicum Overview
(2) The JCI Process 1: Introduction of JCI Standards
(3) The JCI Process 2: Introduction to Evaluation Methodologies
(4) Patient-Centered Standards Review
(5) Organizational Management Standards Review
(6) The JCI Process 3: After the Survey

 (1)では、JCIの歴史や組織の全体像、今回のPracticumの概略の説明。以前にも書いたようにJCIの組織は認証部門とコンサルタント部門に完全に分離しており、情報を共有しないとのことです。従って、コンサルタント部門が行う有償サービス(模擬審査)と、認証部門が行う本審査で見解に相違が生じる可能性があるとのことです。そんな事を言われても実際の審査でこのような事が起こると受ける方は困ってしまうわけですが…^^;

 (2)では、JCIの規格のついての概説。(3)では評価手法についての解説。一人の患者の動線に沿って各部門を追跡する Patient Tracer、薬剤管理・感染管理などシステムを見るSystem Tracer、施設の問題点をチェックするFacility Tourなど。

 規格は14のチャプターに分かれていて、中心となるInternational Patient Safety Goals (IPSG)、患者中心の規格、医療機関管理の規格6からなります。(4)と(5)でIPSGを除く各チャプターの解説がおこなわれました。このあたりは、基本的な知識であります。(6)は認証判定のアルゴリズムや、改善計画の提出、Focused Serveyなど受審後に起こる事が解説されました。

 各規格の項目は合計320あって、その下に1218の測定項目 Measurable Elements(ME)が設定されています。個々のMEは10点、5点、0点の3段階で評価されます。合格するための基準は多段階で、各規格のMEの平均点が5以上、チャプターの平均点が8以上、全規格の平均点が9以上など。つもり殆どの規格で満点をとっておかないと駄目です。もし認証が認められても、満点が取れなかった項目については改善計画を提出しなければいけません。

 規格の内容は方針や手順を定めていることだけを求められているのでは無く、医療機関の全職員がそれを理解し実行し、,成果を評価し、改善活動が成されているのかが問われます。

 会場では毎日、国際色豊かな昼食が提供されます。(和食は出ませんでしたが。)マレーシア、インドネシア、バキスタンなどイスラム教徒の方も多いので、料理に使われる食材にも気遣いがみられました。

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2013年1月10日 (木)

2012年シンガポールJCIプラクティカム2 Practicumとは

 JCIの本部組織はコンサルタントを担当する部門と、認証を行う部門に分かれているそうです。Practicumはコンサルタント部門が開催している国際セミナーで、認証取得や認証更新を目指す医療機関関係者のために情報と経験を提供する事が目的です。アジア太平洋圏域においては、例年4月にシンガポールと、9月に韓国のソウルで開催されています。

 Practicumでは5日間にわたり、JCIの理念や規格、医療安全目標を達成するための分析法の解説、Tracer調査のデモンストレーションなどが行われます。私が参加した日程は2012年4月23日から27日まで。会場はMarina Bay Sands Expo and Convention Center。参加費は1人3200米ドル(朝軽食と昼食込み)となかなかよいお値段です。参加者は約140名で、今後認証を目指す施設からが約2/3、既認証施設からが約1/3。国としてはシンガポール、インドネシア、マレーシア、タイ、ブルネイ、 パキスタン、レバノン、イスラエル、韓国、日本など。

 開催のためには認証病院が2箇所以上あることが条件となっているそうで,将来は日本でも開催されるようになるかも知れません。

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2013年1月 7日 (月)

2012年シンガポールJCIプラクティカム1 The Joint Commission と Joint Commission International

旅行記ネタも尽きましたので、遅ればせながら2012年4月にシンガポールで行われた、「2012 Singapore International Practicum on Quality Improvement and Accreditation」 (長いので以下では Practicumと記載)の簡単な報告を連載していきます。詳細な報告記事は、月刊地域医学2012年9月号に掲載しておりますので、宜しくお願いいたします。 また、オフの写真については、連載記事 シンガポールの風景 にて既に御紹介済です。

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 ボストン出身でハーバード大学卒の外科医Ernest Codmanは1917年に,医療の質を第三者評価するHospital Standardization Programを設立しました。後のこの活動が非営利非政府団体The Joint Commission(TJC)となりました。.現在では全米で19000以上の医療機関がTJCの認証を受けており,、医療の質の向上と医療安全のための de facto standard となっています。

 Joint Commission International (JCI)はTJCの国際部門として1994年に設立され2012年4月までに45カ国,約450の医療機関が認証を受けています。アジアにおいてはシンガポール(21施設),韓国(31施設),タイ(35施設)などが積極的に認証を取得しています。日本は出遅れた感じでしたが、2009年8月に亀田総合病院が初めて病院規格Ver.3の認証を取得したあと、NTT東日本関東病院、聖路加国際病院、湘南鎌倉総合病院が病院規格Ver.4の認証を取得しています。.

 JCIの病院規格は3年毎にバージョンアップがあり、2014年1月にはVer.5が開始される見込みで、2013年の半ばには新たな規格が公開される予定です。

 JCI認証取得というと、医療サービスを受ける目的の海外からの旅行者を受け入れる,いわゆる医療ツーリズムの目的と考える人もいるようですがそれは正確な認識では無いと思います。JCIは医療機関の質の向上と医療安全を実現するための国際標準のツールであり,特に外国人の診療にフォーカスしたものではありません。.(言語を含めた受診の障壁を軽減する事は求められますが。) 国際標準であるがゆえ、医療文化の違いなどを感じて戸惑う事もありますが、単にマニュアルが整備されているだけではなく、それが実行され、評価され、質の改善に結びついている事を厳しく問われるという点で、非常に難易度が高く、実効性のあるものになっています。

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