カテゴリー「書籍・雑誌」の26件の記事

2016年6月20日 (月)

現代フィリピンを知るための61章(第2版)

 海外に出かける前によく読んでいる赤石書店のエリアスタディーズのシリーズ。今回は「現代フィリピンを知るための61章(第2版)」を読んでみました。そう、今年の旅行はフィリピンに行くことを計画中。昨年の南アフリカが非常に遠かったので、娘から「近くにして」というリクエストがあったからです。とはいえ、日本の夏はフィリピンの大半は雨期。あまり旅行に適したシーズンではないようです。台風の心配もあります。そして今回も日本人のあまり行かなさそうなところが目的地です。(この間、ルソン島出身の人に知ってる?と聞いてみたら、知らないと言われました…。)さて、どうなりますか。

 エリアスタディーズは、各国の歴史、文化、経済、政治といった内容について紹介するシリーズで、その国のバックグラウンドを知るために良い本です。国によっては一人の著者が書かれたものもありますが、フィリピンでは30名の著者が執筆しています。第2版は2009年の発行です。各章とも豊富な内容でバランスよく記載されているように感じました。

 東南アジア諸国の中でも、インドシナ半島など陸続きの場所では古くからの国家間の繁栄や紛争の歴史があり、その後の植民地支配、戦後の独立といった流れはあるものの、国の概形としては一つの流れを追うことができます。一方インドネシアと同様島嶼国であるフィリピンでは、もともと全体を統一した国家は存在しておらず、植民地支配の宗主国によって国の範囲が決まったような部分があります。

 フィリピンでは16世紀にスペインがやってきてセブ島を拠点に植民地として支配を広げ中継貿易の拠点としていました。19世紀末にはフィリピン革命、それに引き続くアメリカの植民地化、第二次世界大戦下における日本軍の侵攻、1946年の独立とアメリカの再接近といった複雑な経緯を経ています。宗教(カトリック)や古い建築物ではスペイン時代の影響がみられますが、公用語は北部のタガログ語をベースとしたフィリピノ語に加えて英語も指定されています。南部のミンダナオ島付近はマレーシアのボルネオ島とも地理的に近くイスラム教の影響が強いそうです。非常に複雑です。

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2016年6月 3日 (金)

Diana Wynne Jones (ハウルシリーズ)

 持続的な学習の一環として英語の小説を読むことを日課としていますが、最近はもっぱら電子書籍を購入することが多くなっています。Dan Brownの作品もすべて読み終わってしまい、次に何を読もうかと考えていたところ、ちょうどテレビで宮﨑駿監督の「ハウルの動く城」が放送されているのを見て、おうそうだこの原作を読んでみようと思い立ちました。

 原作となったのはイギリスの女性ファンタジー作家 Diana Wynne Jones (ダイアナ・ウイン・ジョーンズ)が書いた、「Howl's Moving Castle」で、1986年に書かれた作品です。なかなかこれが面白い。女性作家らしく、女性キャラクターの描写が秀逸です。この作品では魔法使いハウルといつも喧嘩をしながらも、内心惹かれているソフィー(魔女の魔法で老婆の姿に変えられている)の嫉妬心や、ヒステリーといった描写がとても面白いのです。一方で魔法を使った戦闘シーンの描写はわりと客観的(遠くから眺めているような描写)であっさりしておりまして、同じ女性作家でもJKローリングのハリー・ポッターシリーズの息を飲む戦いの描写とは非常に対照的という印象を持ちました。

 映画のハウルの動く城は、宮﨑駿監督により背景事情に戦争という要素が加えられるなど、かなり映画的に見栄えのするように作り変えられていますし、ストーリーも相当改変されています。原作者としてはどんな気持ちだろうかと思いますが、その事を問うたインタビューも付録として巻末に収録されています。

 ハウルのシリーズはこの他に2作あるということで、続いて 「Castle in the Air」を購入。今度はラピュタの原作?と一瞬思いますが、実は全く無関係です。アラビアンナイトの世界とヨーロッパの魔法使いの世界の融合といった作品で、読んでも読んでも ハウルもソフィーも出てこないじゃんと思わせつつ、実は意外な形で登場していたということが後半でわかります。あくまでも脇役ですが。この作品でも女性の心理が巧みに描かれています。何だかいつも怒っていたり、ヒステリーを起こしたりする女性キャラたちが非常に魅力的です。諸国の姫様たちを誘拐して集めたら、とんでもないことに…。

 3作目の「House of Many Ways」でも、勝ち気な女性主人公と、ドジで頼りがいの無い男性主人公とのやりとりが非常に面白い。いつまでも子供で居たいハウルと、すっかり魔法使いファミリーのお母さんになって、手の焼ける子供(とオヤジ)の扱いに奮闘するソフィーも相変わらず生き生きと描かれています。

 この人の作品は面白くて、やはり子供向けなので読みやすいので、そのまま Chrestomanci シリーズを読み進めています。すでに6冊読み終えて、残る Conrad's Fate を読んでいますが、こちらもお薦めです。ファンタジーでありながら、その世界観を楽しむというよりも、登場人物の心理描写を楽しむ感じです。

どちらのシリーズも続編が読みたい感じですが、残念ながら作者は2011年にこの世を去っており、新作が発表されることはありません。

(Amazon.co.jpでは英語版はヒットしないようです)

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2015年12月 5日 (土)

テイラー先生のクリニカル・パール2 医師ならば知っておくべき意外な事実

オレゴン健康科学大学(OHSU)家庭医療学教室の前主任教授である、Robert B. Taylor 先生の著書 Essential Medical Facts Every Clinician Should Know を翻訳した単行本「テイラー先生のクリニカル・パール2 医師ならば知っておくべき意外な事実」がメディカルサイエンスインターナショナルから出版されました。テイラー先生には2003年と2008年にOHSUを訪問した時に大変お世話になりましたが、今回アメリカの家庭医療の父ともいうべき偉大なる先生の著書の翻訳に少しだけかかわる事ができました。
 様々な文献に基づき、臨床上で役に立つ多くの知識を簡潔明瞭にまとめたもので、こんな本を一人で書いてしまった Taylor 先生は本当にすごいなあと改めて感服します。
 是非お読み下さい。

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2015年7月10日 (金)

書籍紹介 「本気で取り組む診療連携」

 公益社団法人地域医療振興協会が運営する横須賀市立うわまち病院管理者の沼田裕一先生が本を出版されました。タイトルは「本気で取り組む 診療連携」です。(アマゾンへのリンクはこちら

 この本は沼田先生が同院の経営を担ってからずっと取り組んできた診療連携の成果を様々な指標と関連付けて解析し、その結果をまとめたものです。章立ては以下のようになっています。

  • 第1章 診療連携の重要性について
  • 第2章 診療連携に関連する諸問題(ピットフォール)
  • 第3章 診療連携の実際
  • 第4章 医業指標から見た実際の病院経営
  • 第5章 経済的側面から見た病院経営の発展形態と診療連携の位置付け

 経営コンサルタントでは無く、臨床医の視点に立って、どのような診療連携が病院の経営に貢献し、ひいてはその地域の医療システム全体の向上と患者さんへの利益につながるのか、同院の実績に基づいた豊富な医業指標データをもとに、本当に注目すべき指標は何か、そこから導かれる診療連携のあるべき姿について論じています。

 また第3章では、うわまち病院における診療連携においてどのような工夫が成されているのか、実例が紹介されています。(挨拶回り、診療連携の会、外来診療は優雅になど)

 第5章では、病院経営の発展形態を Phase 1から4に分け、それぞれの Phase で求められる診療連携の方針について述べられています。

 パラパラっと見ると、医業指標のグラフがたくさん出ていてとっつきにくそうな本だなあいう感想を持つかも知れませんが、実際にはグラフを細かく読み取る必要は無く、トレンドを理解することが重要です。内容は非常にロジカルで、多くの示唆に富んでいます。

 病院幹部職員だけでなく、医療経営や診療連携に関わる事務職や、地方自治体で医療行政に携わる方、医師会で診療連携を担当している方など、多くの読者にとって大変有益で、しかも楽しく読める良書としてお勧めいたします。

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2015年6月21日 (日)

南アフリカを知るための60章

 他の国を訪れる時にその国の歴史や文化についてある程度の知識を得ていきたいと常に考えています。旅行ガイドブックにも簡単な解説が載っていることもありますが、それだけでは十分とは言えない。明石書店エリア・スタディーズシリーズは、そのような目的で読んでいます。これまでも、マラウイ、タンザニア、インドネシア、イギリス、オーストラリア編を購入してきました。

 シリーズとして統一されているわけではないので、章=話題の選択は編者にまかされています。多くの著者がそれぞれの得意分野について記しているタイプもあれば、ほぼ一人で全編を記している場合もあります。前者の場合非常に難解な記述をする著者が担当した章は退屈になりがちですし、後者の場合著者によっては特定の興味分野について多くの章を割いてしまい一般的な事項が省略されてしまっている場合もあります。しかしその逆で、多数の著者がそれぞれに楽しい記載をしているものもあり、一人の著者が驚くべき多彩な領域に精通していることに感銘を受けることもあります。

 さて、この南アフリカ編。結論から言うと大変おススメです。章立てのバランスが良く、どの章の記述も素晴らしく、数日で通読してしまいました。

 南アフリカ共和国はサブサハラの国々の中では最も民族多様性があります。ブッシュマンという映画が作られたのは1981年だったそうですが、そのブッシュマンことコイサン系のほかに、東アフリカに広く居住しているバンツー系の人々、近隣諸国から出稼ぎなどで入ってきた人たちなど黒人だけでも多彩ですし、ヨーロッパ人が来訪し最初に入植したオランダ系の人々の子孫であるアフリカーンス、アフリカーンスと黒人の混血であるカラード、イギリス植民地時代に入ってきたイギリス系の白人、インド系、マレー系、ユダヤ系などなど、非常に複雑。アパルトヘイト政策下での人種隔離や民主化後の動きが、その複雑さに拍車をかけています。

 アラブとつながりの強い東アフリカのスワヒリ都市群とは大きく異なる歴史展開であることを再確認し、非常に勉強になりました。

 7月下旬に計画している旅行ではケープタウン空港を入り口に、オランダ植民地時代の名残り強く残しているらしい西ケープ州を訪れます。マンデラ氏が長期間服役していた刑務所の島ロベン島にも足を運ぶ予定です。

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2014年8月16日 (土)

書評 オーストラリアを知るための58章第3版

 その国を訪問する前にはだいたい明石書店のエリア・スタディーズシリーズを読んでいます。そんなわけで今回、「オーストラリアを知るための58章第3版」を読んでみました。
 エリア・スタディーズでは、複数の著者がそれぞれの得意分野について記していくことが多いのですが、オーストラリア編では著者は越智道雄氏一人です。奥付の著者紹介によると、1936年生まれ、明治大学名誉教授などをされている方で、米豪の比較文化、文化多元主義などが専門分野とのことです。
 著者がひとりということで、文体や流れには統一感があります。ただどうしても著者の興味の分野に内容が収束していきますので、この本でも民族背景や、政治体制、オーストラリアルールのフットボールなどについての濃密な記述があり勉強になる反面、地理や地勢学的な内容への言及は全くと言っていいほどありません。なので旅行者が旅行の前にその国のことをいろいろと知りたいと思って読むと、あまり有益な情報は得られないかも知れません。
 しかし、オーストラリアの民族文化的背景、日本人には同じように見えてしまう様々な「白人」のバックグラウンド(母国、宗教、政治的背景)などの知識は、現地の人と接する上で役立つ場面もあるかも知れません。

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2014年3月 3日 (月)

Inferno ( Dan Brown )

 The Da Vinci Code (ダビンチコード)を書いた作家 Dan Brown の小説 Inferno 。日本語訳版が発売され広告が出ているのを見て、あっそうだ読んでなかったなあと思って英語版の電子書籍を購入しました。本を持ち歩かなくてもスマートフォンやコンピュータで読むことができる点は電子書籍のメリットですが、字の大きさを変えられるのがもう一つのメリットです。最近の健康診断でも視力は1.5を維持しているのですが、それゆえ近くの小さな文字は読めないのです。

 今回の物語はダンテの Divine Comedy (神曲)が題材となっています。スピード感のある展開、まるで実際に旅行をしているかのような気分になる様々な都市や建物の描写、読者を欺くどんでん返しの連続でなかなか楽しい作品でした。よくまあ色々と思いつくなあと感心させられます。Google Mapsなどで、ロケーションを確認しながら読むと楽しさが倍増します。

 シンボルに隠された暗号を読み解いていくというこれまでのラングドン教授シリーズの展開を考えると、今回のInfernoでは、バイオハザードのマークが出てくるぐらいで、ほとんどシンボルらしいものが出てきません。その点ではちょっとネタ切れしてきているのかも。教授を記憶喪失にする事で、謎を増幅させている感じもありますし、よく考えると犯人が「その場所」を教えるようなヒントをなぜ残したのか、その必要があったのかという点には全く説明がなかった気がしますが、まあフィクションなのでそんな事はどうでもいいでしょう。

 十字軍やルネッサンスなども絡み、歴史や美術など、色々なパックグラウンドの情報を調べないと意味がわからない事も多いですし、知らない単語も山ほど出てきて、楽な読書ではありませんでしたが、それゆえいろいろと勉強になりました。

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2014年2月21日 (金)

月刊地域医学Vol.28-No.2発売

特集 「スコットランドのへき地医療と教育」 です。私は卒後研修についての記事を担当しました。

 年末年始にかけて、現地でとったメモと、講義の録音と、いただいた資料をベースに、不確かなところはメールで確認したりしながらまとめました。他の記事もそれぞれの著者入魂の作品です。

 スコットランド北部ハイランド地方の医療事情や医師確保策を詳細に紹介した著作物は、日本では初めてなんじゃないかと思います。

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2013年9月17日 (火)

書評 イギリスを知るための65章

 明石書店のエリアスタディーシリーズは、旅行で訪れる国について予習する目的でよく読んでいます。これまでは、マラウイ、タンザニア、カンボジア、メキシコ、インドネシアと、暑い国ばかりでしたが、今回はイギリス編を読んでみました。
 ヨーロッパの歴史は世界史の中でも、たくさんとりあげられているわけですが、民族の大移動や、繰り返される争い、入り乱れた各国の王室のつながり、キリスト教諸派やイスラム教勢力による押し引きなど、まったく複雑怪奇です。

 ケルト系のブリトン人が移り住んでいたブリテン島に、紀元前55年にローマ帝国皇帝カエサルが侵攻。紀元43年にはクラウディウス皇帝による征服が始まり、ローマ帝国の属州となります。5世紀にローマ人が引き上げると、ドイツからゲルマン系のアングル人、サクソン人、ジュート人が侵入し、ブリトン人と抗争の末、次第にアングロ・サクソン系が優勢となります。アングロ人の土地=イングランドです。8世紀にあるとデンマークから北ゲルマン民族デーン人のヴァイキングが東海岸から内陸部に侵入。10世紀にデーン王朝を樹立。次にはフランスのノルマンディーからのママン人の騎士を率いたギョーム=ウイリアム1世がノルマン征服王朝を樹立などなど。国としての形ができてきたのがこの頃なのかと思いますが、その後も大変複雑な経緯が続きます。これらは本書の53-57章に「イギリス小史」としてまとめられています。

 歴史の他にも、文学、演劇、パブなど娯楽や、ナショナル・トラスト、アンティーク、レクリエーション、教育、医療、大学生活など様々な話題についての記事が65本掲載されています。ただ記載はどうしてもイングランドが中心となってしまい、ウェールズ、スコットランド、北アイルランドに関する情報はあまり多くはありません。

 この本だけでイギリスを知ることは到底不可能ですが、更に深く知るための入口の書籍として良いと思います。初版が2003年なので10年ほど経っていますが、古さが気になる部分はあまり感じられませんでした。

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2013年8月26日 (月)

書評 ボルネオ島アニマル・ウォッチング

 ボルネオ島(カリマンタン島)は、一つの大きな島の中にマレーシア領と、インドネシア領と、ブルネイダルサラーム国が混在しています。(さらにブルネイは、マレーシアのサラワク 州に囲まれて、二つに分断されていたりして。)
 ボルネオ島といえば手つかずの自然、特徴ある動物の宝庫というイメージですが、ボルネオ島の熱帯雨林もインドネシアと同様、アブラヤシのプランテーション開発などで、その面積を減らしており、そこに住む動物たちにも大きな影響を与えているそうです。
 ヤシ油を原料とした石鹸を売っている某社は、ホームページや製品に海岸のココヤシを使って自然環境にやさしいというイメージを醸し出していますが、同じヤシでもアブラヤシは見た目も全く異なります。
 今回ご紹介するボルネオ島アニマル・ウォッチングは、JICAの専門家として現地で活動を続けている著者が、ご自身のノウハウを集大成したもの。本の始めにはカラー写真での動物紹介が載っています。アフリカのサバンナのようには大型の動物は多くないのですが、世界でもここにしかいないテングザルをはじめ、絶滅が非常に危惧されているスマトラサイ、マレー語で森の人という意味のオランウータン、メガネザル、ヒヨケザルなど様々な動物が生息しているのです。
 書籍の前半ではボルネオ島の成り立ちなどについて解説があり、後半は自然保護区ごとによく見られる動物にスポットを当てて解説。足跡の一覧なども掲載されています。さらっと見る写真図鑑のような本を予想していると、文字の多さにびっくりするかも知れません。自然保護区の簡易宿泊施設に何日も滞在して、じっくりと昼夜動物を観察することに興味がある人にとっては、あるいはいつかそのような旅行をしたいと思っている人にとっては、またとないガイドブックになることでしょう。

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